第八回 覚めたヒロインは覚醒へと。


 ――ぼんやりする世界観。眼鏡を着けてないから。それだけではないようだ。



 白い景色は続く。何故なら病室だから。同色のカーテンで仕切られているの。私は二人部屋に移っていた。集中治療室からはもう……あの黒い大河は消えていったの。


 ボッチじゃない。

 駆けつけてくれる親友が、私にはいる。


 わかるの、さっきまでずっと泣いていたのが。それに頬が少し紅くなっているのが。叩かれて紅くなっていると思われるから……叩いた相手も察しがつくから。そこまでして私のことを思ってくれる子、千佳ちかがいるの。その隣には、この子を励ますためにこの子のことを叩いたと思われる梨花りか。そしてそのまた隣にはね、二人の共通の友人、可奈かながいた。


 早坂はやさか先生が、連れてきてくれた。


 私一人のために、動いてくれた先生。……ううん、きっとどの生徒でも、親身になってくれる先生だから。私が、今まで出会ったことのない先生像がここにある。


天気てんき君、君が作ってくれた『新解釈の白雪姫』でクラスも、そして学園の皆を笑顔にしてみせるから、学芸会は君も、元気になって楽しんでほしい。もう誰も、君を苦しめたりはしないから。……あいつらもな、事の大きさを知って、充分反省してる。許してやってくれとは言えないことかもしれないけど、もう一度だけでも、クラスメイトとして接してやってくれないかな? あいつらは君に、何でも協力したいと言っているから……」


 そう、早坂先生は言うのだけど、

 即答は……できなかった。自分では声を出しているつもりでも、相手に届かないの。


 その前に、頷くこともできなかったから……それでも、一生懸命に耳を傾けようとしてくれる早坂先生。「無理に答えなくていいから」とまで、言ってくれたのだ。


 いじめという膨大な空気は、その事実を知ってくれるだけでも、和やかな空気に変えてくれる。人は悩みを聞いてくれるだけでも、その半分は解決したような心境になるの。


 それは、ある種の鬱から、抜けるのと同じ効果を齎すのだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る