殺戮オランウータン爆撃破壊譚

爆撃太郎

殺戮オランウータンは東京の大空を埋め尽くし、ニトログリセリンを十二分に含有した糞を肛門から放ち続けていた。


「なぜこんなことになったんだ…」


俺こと、山崎よしおは空を眺めながら呟いた。

四方八方から悲鳴が聞こえる。殺戮オランウータンから生み出される無限の糞便は、平穏な日常を破壊するには十分すぎる量だった。


ロシアの秘密研究所によって改造された殺戮オランウータンは、背中からプロペラを生やしており、叫び声はあらゆる電波を妨害する。すでに開発元のロシア、そしてアメリカ、中国は殺戮オランウータンによって壊滅してしまったらしい。…まあ、電波が一切伝わらない今、その情報が正しいのか確認する術はないが…


「よしおーーーー」


幼馴染の小百合が、遠方から俺の名前を叫んでいる。殺戮オランウータンの糞便爆撃から逃れようとする群衆の中から、必死に俺の姿を探して名前を呼んだのだろう。俺はこの混乱の中、小百合と会えたことが心より嬉しかった。不幸中の幸いだと言えるだろう…


「小百合ーーーー」


ピカッ!!


俺が小百合の名前を呼び返した瞬間、閃光が走った。


「うわっっなんだこの光は!!」


そうである。閃光弾の百倍の明るさを誇るこの光の正体は…ご存知殺戮オランウータンフラッシュである。ジュワッという、水分が蒸発する音が響いた。


「ぎゃああああああああーーーーーーよしおーーー!!!」


理解するのに数秒かかった。選考による熱で、小百合の目が蒸発したのだ!


「小百合ーーーーーー!!!!」


俺の目はかろうじて原型をとどめているが、小百合を視認するほどの視力は残っていなかった。


「よしおーーーーーー」

「小百合ーーーーーー」


俺たちはお互いの名前を呼び合う。視力を失った今、お互いの存在を確かめる術は、名前を呼び合う以外に存在しないからだ。


「クソッタレ!くそ!なんで俺たちがこんなめに!」

「よしおーーーーーよしおーーー」

「小百合ーーーーーーーーー」


殺戮オランウータンの爆撃は続く。


その頃、自衛隊は無数の戦闘機を殺戮オランウータン迎撃のために出発させる準備をしていた。自衛隊基地では、隊員たちが整列している。


「この作戦は…おそらく失敗する」


隊長は厳しい顔でそういった。


「敵の数はあまりにも膨大だ…しかし…」


隊長のほおをわずかに涙が伝う


「しかし!このまま、国民を!無垢の民をこの悲劇の中で踞らせていていいのか!?いや!いいはずがない!」

「我々の命はここで尽きる!だが!少しでもあの忌まわしき猿どもを処分し、少しでも死人を少なくするのが!我々にできる唯一のことなのだ!」

「諸君!私とともに、国民のために命を捨てて欲しい!」


隊長がそう叫ぶ。自衛隊員たちは、すかさず大きく声をあげる!


「了解!!」


その時、自衛隊基地を巨大な爆撃が襲った。


「なっっ」


そうである。超巨大弩級殺戮オランウータンによる爆撃である。

その糞便は、自衛隊基地の一つを吹き飛ばすには十分な威力を秘めていたのだ。

殺戮オランウータンの知性は高い。そして暴力性を兼ね備えている。

誰がどう覚悟を決めようと、誰がどんなものを守りたいと思おうと。

強大な力の前には無力なのだ。


世界中の空を殺戮オランウータンが覆う。爆音が轟き、爆風が吹き荒れる。


もうあの青い空は帰ってこないのだろう。




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殺戮オランウータン爆撃破壊譚 爆撃太郎 @yakitori44

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