第33話 くるり
丸くて黒いサングラスをかけ、灰色の長い髪を一つに結んで前に流し、一見すれば頼りなく見えながらも実際は、長年生きてきた樹木のように貫禄のある身体つきのご高齢の女性。
が、突然目の前に現れた史月はしかし、次に先程までなかった木の根で支えられている歪な丸の食卓を見つけて、自分が飛ばされたことを把握するのであった。
が。
(???会いたい人???)
会いたいと一抹の想いさえ抱かなさそうどころか、会ったことすらないような。
仕事上で会った人物ならば覚えている史月であったが記憶にはないのでそうではなく。
もしや仕事以外で何やら言葉を交わした人物かとも思ったが、記憶の端にさえ引っかかってないそんな人物に会いたいのかと問われれば、いいえと断言できそうなもの。
もしや、魔草の調子が悪いのではないかと本気で疑い。
もはや、それが正解としか思わずにはいられなかった。
(そもそも会いたい人は一人限定のはず。それがこうも忙しなく三人の元に飛ばされるなんて。いや、しかし、数が数だし。想定外なことが起こってもおかしくはない、か。そもそも魔草だしな)
「あんた、誰だい?」
あ。やはり知らない人だったんだ。
考えに耽っていた史月は女性の問いかけにより、少なくともお互いに初対面の認識なのだと把握しては、浅くお辞儀をした。
(もしも知り合いだったとしても、面倒はごめんなので、初対面を貫こう)
「申し訳ありません。魔草の調子が悪かったようで、予期せぬ場所にあちらこちらと飛ばされている最中でして。ご迷惑をおかけしました。すぐに出て行きますので」
間髪入れず、くるりと振り返り扉へと一直線に向かおうとした史月を女性は待ちなと言っては留めた。
「そりゃあ、災難だったね。で、名前は?」
「申し遅れました。史月と申します」
名乗りたくはなかったが仕方ないと、史月は内心渋々、表面では淡々と答えた途端、女性の片眉毛がひくりと高く持ち上がった。
「史月、だって」
「はい」
(もしややはり知り合い、だったのか?)
剣呑な物言いに、もしやまた何やら失敗を働いたのかと不安を抱く史月であったが、それは全くの杞憂で。
女性は突然大声で笑い出したかと思えば、ズズイと史月に近づき、浅葱の師匠だと名乗ったのであった。
「え?」
(2021.12.12)
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