第31話 次。とは




 何か言いたい。

 けれど何を。

 何が言いたいんだ。

 同じものを見て言葉をもっと交わしたい?

 同じものを見て視線をもっと交わしたい?

 君にもっと触れてみたい?

 物理的な意味ではなく、精神的な意味で?


 羞恥心からか、伝えたい言葉が違うからか。

 喉に小さな焼き石が詰め込まれたように、ひどく熱くて痛い。


「史月?」

「あ、」


 急いでいる。邪魔をしている。することがたくさんあるのに。こんなことで手を煩わせたくないのに。引き留めるな。自分なんかに時間を費やさせるな。今まで通りでいいだろう。時間は有限なんだどんなに長生きするとしても。時間が足りないんだ。


 こんな自分なんかの為に時間を使わせるな。


 ピーピー、ピーピー。

 甲高い警戒音が体内で鳴り響く。


 ああ、ああ。うるさい。わかっている。

 早く手を離すべきだと。

 早く言葉を発すべきだと。


 わかっているんだ。


 ケイコク。

 ケイコク。


(ッハハ。おかしいな。体内で勝手に言葉が生み出されている)


 オサワリゲンキンノタメツギノモクテキチヘトビマス。


(そうか。触っては駄目だったか。しかし触ると言っても服なのに。厳しいな。それに次の目的地へ向かうのか………ん?)


 次。とは?


 勢いよく釣り上げられた魚よろしく空へと一気に飛躍したかと思えば、豆粒ほどの大きさの浅葱が視界に入って。


 何か。

 何か言わなければ。

 何か言いたいんだ。

 と。混乱する頭で歯を食いしばりながら悩んで必死に導き出した言葉は。






「帰ってきたら都雅の料理が食いたい。か。あいつも遠出しているからな」


 浅葱は天空から己の袖を一瞥しては、薬草畑へと向かったのであった。












(2021.11.30)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る