第14話 じわり
浅葱が師匠の村里から戻って来たのは九日後。
村里の名物である白味噌を土産に帰って来て、家の中に居る史月に好きに使っていいと言い食卓の上に置くや、さっさと薬草畑へ行こうとするのを、史月はおいと言って呼び止めたので、浅葱は扉の前で振り返った。
「白味噌は火を通さなくても食べられる」
「そうか」
「ああ」
「………」
「何か身体に異変があるのか?」
「いや、忍灯君のおかげで治ったが」
「が?」
「いや。その」
(くう。何故君が診てくれなかったのかと訊くだけなのに、どうしてこうも緊張しなければならないんだ)
「いや。わざわざ忍灯君を呼んだのは何故かと思ったんだ」
「ああ。俺が診てもよかったが、薬草ばかりで嫌じゃないかと考えたからだ」
一瞬間。
確かに鼓動が不自然に止まった。
(僕のこと、考えている時も、あったの、か)
じわり、じわりと顔に熱がこもる。
「そうか。でも僕は別に薬草がって」
もう居ないし。
無言の時がきっと長かったのだろう。
扉を開けて外に出れば、旅疲れなど知らずに元気に動き回る浅葱を見て、ふっと小さく噴き出したのであった。
(2021.10.13)
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