第25話 夜

この時間はいつもテレビを観ていた

父が怒り出す前までは兄とチャンネルを争っていた

それでジャンケンに勝ったのに兄が嫌がらせでテレビを隠して私は泣き喚き

父がリモコンでテレビを消すのだ

食べている時はテレビを見るのが禁止になった夜だった。

あの頃一番好きだったのは読書だった

とある日がさす夕暮れ時から時間を忘れてミヒャエルエンデのモモを読んだ

人生で最高の時間をくれるのはいつだって優秀な夢想家である

文字を読むのが好きだったので父の本棚はしょっちゅう空になった

空になっている間は私の手元にあるのだ

難しい心理学の本やカビに関する本など父の本棚は学校の図書館より品揃えが豊富で好きだった

とある日、近所の幼馴染が遊ぼうと呼びにきて

本を読んでいるからと断った

その子はその日誕生日でしこたま怒りだした

私は何より本がすきだったけれど、本をちゃんと読めていなかったのだ

人生を変える力を持った言葉という代物にいつも興奮してはいたものの、頭でしか読めていなかったのだ

本には人を大切にする方法がたくさん書いてあったのに......

夜はいつも本が読みたかった

私は夜になると母に怒られながら布団に入っていた

早く寝なさいと言われるまで本を手放さなかった

夜はしかしいつも来た

夜通し夢想していたかったし本を読んでいたかった

子供だったあの頃、もう少し外を向いていれば

今はなかったように思うし

もっと違った人生だったとも思うが

本をどんな形であっても読んでいるのには変わらなかっただろう

ただ、言葉の持つ色んな強さに惹かれる一方でその中にある魂を汲み取れない大人になってしまったのは

誰でも無い私の責任だし、あの日はもう二度と帰ってこないから

あの子にももう会う事はないから

ただ夜が通り過ぎて

ただ目を瞑って

ただ眠りにつくことばかりして

そうやってこれからを塗りつぶすのだけは

もう嫌なんだ

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