淡き幻想の彼方へ外伝 ミゾレ編

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 雨がざあざあ降っている。

 そんな中、森の中を迷子になっている少年がいた。

 少年の名前は、ミゾレ。


 ミゾレは、森の中に果物をとるために、やってきていた。

 それは、お店で買うとお金がかかるが、自然に生えているものを採取すれば無料だからだ。

 つまり、節約するために、森に入ったのだった。

 ミゾレの家は貧乏だ。そして、大家族。

 だから彼は、少しでも家計の足しになる事がしたいと思った。


 しかし、採取しているうちに、雨が降ってしまった。


 大雨が降るなかミゾレは、雨宿りが出来る場所を探していた。

 右往左往する彼がやがてたどりついたのは、さびれた研究所だった。


 蔓に覆われて、建材はサビついている。


 廃棄されて長い年月が経っている事が外観からうかがえた。


 ここで、雨宿りしようと彼は判断し、玄関先で腰を下ろした。

 雨が降りしきるなか、風が冷たく吹き付けてくる。


 このままだと風邪をひいてしまうかもしれない。

 そう思った、ミゾレは建物の中に入る事にした。


 住人のいなくなった建物に、勝手に入るのは気が引けたが、健康には変えられなかった。





 建物の中に人はいない。

 しかし、機材などはそのまま残されているようだった。

 人の気配だけがなくなっていた。

 そこには、不気味な静寂が満ちていた。


 ミゾレは、目的もなく歩き回った。

 じっとしているのも退屈に感じたからだ。


 建物の中は、外観と同じようにさびれている、と思いきや思ったより綺麗だった。

 まるで、内部と外部の時間の過ぎ方が異なっているかのようだった。


 誰かが定期的に管理をしに来ているのかもしれないと思った。


 ミゾレはくしゃみをした。


 もしかしたらこの研究所の中に、体を温めるものがあるかもしれない。

 

 濡れた服を乾かす場所なども。

 ミゾレは、気後れしつつも研究所の奥へと進んでいく。


 すると、そこには巨大化したウジ虫が何匹もいた。

 ミゾレは悲鳴をあげながら、逃げる。

 普通のウジ虫は、ゆっくりとしか進めないはずだった。


 しかしウジ虫は、足が速かった。

 ミゾレは追いついたウジ虫達に、のしかかれられた。

 そして、食われるかという思いをした。

 だが、ウジ虫はミゾレを喰わなかった。


 のしかかれれていたミゾレに、青い液体のようなものがかかったからだ。

 それきり、ウジ虫達は動かなくなる。

 見ると、ウジ虫達は何者かに引き裂かれたようだった。


 助かった、と思った。


 だが、ウジ虫が絶命した後も、その何者かは必要以上にウジ虫を引き裂いていく。


 まるで下にいるミゾレごと、殺そうとしているかのように。


 ミゾレは慌てて、ウジ虫の下から這い出た。


 すると、その何者かがミゾレに襲い掛かっていた。


 それは、ぶよぶよとした人間らしき何かだった。

 だが、肌は青くなっていて、頭皮からは髪のかわりに、蛇が生えている。


 おとぎ話に出てくる蛇の髪の異形のようだった。


 ミゾレは悲鳴をあげて、逃げ惑った。






 そして、ひたすら走って、丈夫な扉の部屋へと逃げ込んだ。


 そこには、たくさんの拷問器具が並べられていた。

 悲鳴をこらえて、目を見張るミゾレ。


 何者かが追ってきているはずなので、静かにしなければならなかった。


 やがて、扉が叩かれる音がする。


 だが、その部屋の扉は頑丈だった。


 何者かは入っては来られない。


 やがて、扉の外にいた何者かは去っていった。


 しかし、安全になったとは思えなかった。


 ミゾレは拷問器具が並ぶその部屋から一刻も早く出たかった。


 体を休める間もなかった。

 辺りを窺い、部屋の外に出たミゾレは玄関からではなく、窓から外に出る事にした。


 一瞬でもその狂った空間にいたくなかったからだ。


 しかし、窓は開かなかった。

 しかもそのガラスは、どんなに叩いても割れない。


 ミゾレは閉じ込められたようだった。

 途方にくれるしかなかった。


 しかし、絶望に浸る時間すら、そこは許してくれないようだった。


 その場に、うっすらとした黒い影のようなものがあらわれた。

 不気味はそれは、何をしてくるでもない。

 しかし、これからもそうとは限らない。


 ミゾレは再びそれらから逃げ回らなければならなかった。


 追い立てられるように建物の上の階へと昇っていく、ミゾレ。


 ミゾレは屋上に出た。

 外は雨が降っていたが、そんな事はもはや気にならなくなっていた。


 ミゾレは屋上から外に出るために、外壁を伝って降りようと考えた。


 雨の中、足を滑らせないように慎重に行動する。


 ミゾレはゆっくりと、建物の壁を伝って、降りていった。


 しかし、途中の階で窓に何者かが映った。

 それは、うじむしを切り裂いたあの何者かだった。


 手に持っているナイフが、青い体液で濡れているため、間違いないと思った。


 ミゾレが何度もたたいても割れなかったガラス窓は、何者かの拳であっけなく割れた。


 その何者かはミゾレにナイフを突き立てようとする。


 ミゾレは慌ててその場から離れようとして、足を滑らせた。


 ミゾレは地面に落ちたが、がかろうじて意識はあった。


 だか動ける体ではなかった。


 体中が痛かった。


 骨が何本か折れているかもしれなかった。


 研究所の窓から、何者かがナイフを落とそうとしているのが見えた。


 それがいるのは、ちょうそミゾレの真上だった。


 ミゾレがやめてくれ、と訴えるがその何者かは聞き入れなかった。


 ナイフから手をはなす。


 地面に倒れたミゾレめがけて、ナイフが吸い寄せられていった。


 ミゾレは胸からナイフを生やし、吐いた。


 ただ、果物を採取しに森へ訪れた少年。


 彼は、そこで生を終える事になった。


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