5 へんてこ卵の正体は


「まあ、よく考えたら人がいなさすぎるもんねえ」

「ご、ごめんね?モカ」

「いいよお、わたしのためを思ってくれたんだし。それに、これはこれで貴重な体験だし」


 へんてこ卵の傍らに腰掛けながら、二人は建設途中の図書館を見上げている。

 空の茜はその色を深め、影の濃くなった大岩はますますその存在感を増している。


「しっかし、でっかい図書館を作るもんだねえ」


 モカがぽつりと呟く。


「ムサシノは昔から文芸文化に重きをおいてた街だそうで。その象徴として、名物のムラサキ野にどの街にも負けないほど大きな図書館を建てようって話になったんだって」

「へえ、それじゃあ本屋さんの品揃えにも期待ができそうだね」

「あー、でもその計画が立ち上がったとき、ちょっと揉めたらしいよ」

「ん、なんで?」

「本が売れなくなるじゃないか、って」

「あー」


 それは困るねえ、とモカは頷いた。


「そこら辺はうまいこと折り合いをつけたらしいけど」

「まあ、本っていうのはまず読んでもらわなきゃいけないからねえ」

「……モカの本も、いつかこの図書館に並ぶようになるといいね」


 アンズがそう言うと、モカは苦笑いをした。


「まあ、そうなるのが一番だけどねえ。でも、まあ、もしもそうならなくても、本っていうのは全部繋がってるから」

「?」

「本っていうのは人の思考だから。例えばわたしの本がこの図書館に無くても、わたしの思考に影響を与えた本があるかもしれない。それがなくても、その本に影響を与えた本があるかもしれない。そういうふうに思考は繋がってるから、世界中の本は全部繋がってる。ここにある一冊の本は、その一冊が世界中全ての本でもあるのさ」

「なるほどね」

「うん」

「で、本音は?」

「たっくさん置いてほしいです。出来ることなら特設コーナーとか作ってほしい、あ、あと挿絵とかも一緒に載せてほしいです」

「うん、正直でよい」

「だから、たっくさん書かなきゃねえ……」


 苦笑いをしながらそう呟くモカの顔はでも、どこか楽しげだった。

 その横顔を眺めるアンズもまた、楽しげである。


 その時、二人の傍らにあるへんてこ卵が周りの白い花と一緒に突然、ぼう、っと発光し始めた。


「えっ?」

「わっ、」

「……光るのは花じゃなかったの?」

「そう聞いてたんだけど……ていうか、これは結局なんなんだろう?ほんとに卵なのかな」

「……ふむ」

「モカ?」

「アンズ、こういうのはどうかな?これは全部『本の卵』なの」

「本の卵?」

「『ムサシノ』では昔から、卵から本が産まれてくる。だからそれを保管するためにこんなでっかい図書館が必要だったんだよ」

「ふむ」

「だけどじゃあ、この卵は誰が産んだんだって話になるよねえ。それは実はね……」






 まあこんな風に、旅を続ける二人の話は尽きることなく、今日もまたそんな一日が更けていくのでした。

 














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ムサシノふたりたび きつね月 @ywrkywrk

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