街で暴れていた危険な殺戮オランウータンをいきなり現れた女子高生がレールガンで倒す話

大河

街で暴れる危険な殺戮オランウータンをいきなり現れた女子高生がレールガンで倒す話

 気付けば私を含めたクラスメイトたちが椅子に縛り付けられていた。

 困惑よりも先に身体が情報収集を開始した。胴体と手足がそれぞれ椅子の脚と背に固く結ばれており、容易に抜け出すことはできない。周囲は暗く、どこか室内であることだけが分かる。部屋が暗くなっている理由は目前のスクリーンにあるのだろう。投影された映像を私たちの目に焼き付けさせたいという捕縛者の意図を感じる。

 スクリーンには街の監視カメラと思しき画が流れている。

 見覚えのない路地裏だ。清掃さえも行き届いていない様子で細かなゴミが散乱している。ゴミ溜めのような通路を辿って視線をずらすと、醜い景色の端に見覚えのある色を確認した。私と同じ色の服を着たヒト型の生命。端的に表現すれば、それは、私と同じ女子高生に見えた。女子高生らしきそれは路地裏の隅に倒れている。そして彼女の身体の下には、さらに見覚えのない色をした液体が広がっていた。

 真っ赤な色の液体が彼女の血だと気付いたとき、すぐ近くで二種類の声が上がった。一つは私同様、スクリーンに映っているのが『血を流す女子高生』だと認識したことによる悲鳴。もう一つは、たった一人だけ欠落したクラスメイト――少女Aを探すものだった。

 室内には少女Aだけがいない。映像では、女子高生が血を流して倒れている。私たち以外にクラスが存在しない以上、制服を着せただけの似非でなければ血に沈んでいる人物こそが少女Aだった。

 悲鳴は次々と、連鎖的に続いていく。およそ全員が自らの置かれている状況を理解した頃、ぶつんと映像が途切れた。

「はいはい~、ちょっと失礼しますよ」

 投影の停止から数秒、代わりに妙な男が映し出された。清潔さとは無縁のぼさぼさに荒れた髪。針金のように細いシルエット。シャツの下には肉の削げ落ちた骨と皮だけの肉体があるのだろうと断言できる貧弱さ。よれよれでしわだらけの白衣はどこか想像上の研究者を思わせた。

 罵倒の合唱を一身に受けて、その男は、居心地の悪そうに頭を掻き毟っている。

「うるせえなマジで……。いえ失礼。街で何が起きているのかは一度見ていただいたので、次はざっくりと解説をしましょうか。訳分からねえとは思いますので皆さん。で、大前提からの話になるので、まぁ興味のない人は適当に聞き流しておいて頂ければ。クラスメイトの命がなくなった後で適当に聞き流せるかは知りませんけども……」

 などと短い前置きを口にして、男は説明を始めた。

「アナウサギでもゴリラでもニホンカモシカでもヒトでも、ありとあらゆる動物において殺戮という二つ名を冠した上位種がいます。これは後天的な変化、つまり最初から皆さんの遺伝子に上位種へ変わるための要素自体は組み込まれていて、特定の条件を満たすことで肉体の変質が始まります。条件とは何か、ですけども……うん知ってるってね。呼び名から丸わかりってね。いやはやめちゃめちゃ罵ってくるじゃん。俺そういう性癖は無いのでちょっと静かにしてもらえますかね」

 強烈に男を詰る生徒の一人を軽くあしらい、男は続ける。

「殺戮持ちに変わる条件は、同類を殺すこと。数は二十七。二十七もの同類を殺した個体が、殺戮の名を持つ別種に変質するわけですね」

 その数を聞いて、私は、大したことのない数だと思った。

 命は等価だ。同類であるなしによって差異は生じない。幼少期に蟻の巣を枝で突いて崩した経験があるだろう。蛙を轢き潰した過去があるだろう。命の価値が等価なら、私たちは誰しもが他者の命を奪っている。

「…………」

 男は少しだけ間を置いて、それから続きを話し出す。

「ではここで動物から人間まで対象を絞って話を進めます。人間が二十七人の他者を殺すことで殺戮人間になろうとしたと仮定しましょう。二十六人目の段階ではその人間は大量殺人犯です。法の下、殺人を犯した罪を裁かれることになる。しかし二十七人を殺した時点で人間は殺戮人間に変化する。殺戮人間は人間とは別種です。虫が犯した罪を人が裁くことが無いように、殺戮人間になった者の罪を人間が裁くことはない。殺戮人間がいくら人間を殺しても、人間はその死を事故として処理するんですね。皆さんはよくご存じかと思いますが」

 当然だ、そんなこと当たり前だろ、何言ってんだ。男への罵声は止まない。白衣の男は生徒たちの声をまるで意に介さず、平然とした態度を維持している。

「さて、少し話を変えますか。オランウータンって知ってます? まぁさすがに存在は知ってますよね。人間と比べて筋力的には五倍から八倍あるんだそうで。いやとても強い。少なくとも人間よりはずいぶんと強い生物です。殺戮人間に比べると負けますけどね。殺戮種ってそれだけ強いんですよ。なんといっても上位存在ですからね」

 オランウータンという単語に興味を引かれたらしく、罵倒の勢いが和らぐ。学生は得てして非日常に類する単語が飛び出すと、そちらに意識が向いてしまうのだ。

「オランウータンが気に入りましたか? それは僥倖。我々が生み出した殺戮オランウータンも報われることでしょう」

 男の言葉が放たれると同時――

 暗かった室内に照明が灯り、オランウータンが侵入してきた。

「これらが街で貴方たちのクラスメイトを殺した獣。を殺すために作られた執行者、殺戮オランウータンです」

 オランウータンは最前列にいた男子生徒の頭蓋に両指を指し込み、左右に開いた。男子生徒は自身の身に何が起きているか理解できないまま真っ二つに裂けて絶命した。

 それからは阿鼻叫喚だった。

 二人目、三人目が処刑されたくらいで室内はむせ返るほどの血の臭いで充満していた。束縛から逃れようともがく生徒がいれば、優先的に殺された。五人、六人と数を重ねるにつれて抵抗する生徒は少なくなっていった。ただ自分の順番が来ないことを祈っている。かちかちと恐怖で歯を鳴らし、何かの間違いが起きることを願っている。自分の番が飛ばされて、自分だけが生き延びられやしないかと。

 あり得ないことだ、とどこか冷静な私が俯瞰している。

 部屋に備わるスピーカーから、男の声がした。

「命は等価だ、誰しもが誰かを殺して生きている……その通りかもしれない。だが、だからといって殺した事実がなくなるわけでもなければ、恨みが消えるわけでもない」

 だからお前たちは死ぬのだと。

 男の声は告げていた。

 だがいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってきて、とにかくすごい攻撃で殺戮種を抹消した。

 女子高生は生き延びた。




【問】

 どうしてゴリラではなくオランウータンを処刑動物に選択したのか?

【解】

 ゴリラは心が優しいから

【問】

 どうして認識できないはずの殺戮人間の罪を人間が覚えていられたのか?

【解】

「いきなり長いレールガンを持った女子高生が全てを解決する話」の主要登場人物にして万能の願望機であるレールガン女子高生が気まぐれで殺戮人間の罪を人間の記憶に残したから


【問】

 どうして長いレールガンを持った女子高生は殺戮オランウータンによる殺戮を止めたのか?





















【解】

 ちょっとやりすぎかなと思ったから

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