第10話 夜の騒動
人気のない建物の中でカランと小さく音を立てて転がる仮面に男が必死に腕を伸ばす。
顔だけは見られまいと悪あがきをする男の抵抗が虚しいことこの上ない。
リオンは容赦なく仮面が男の指先に触れる寸前のところで仮面を蹴り飛ばした。
男はぐったりと項垂れて抵抗の意志はなく、近づいて来る警笛から逃れようとする者もそんな気力のある者も既にいなかった。
せいぜい、その顔と名前を世間に晒して有名人になればいい。
銀色の仮面の下で地面に沈んだ者達を睨み付け、転がった青い仮面を踏み壊した。
「動くな!」
聞き慣れた声が建物に響き渡る。
リオンは自分に向けられたライトと波動銃に目を細めた。
思った以上に到着が早い。流石は王宮警羅隊随一の俊足、アルフレッド・バートンだ。
リオン、オズマー、ケリード同僚で気さくで明るいお調子者だ。
親しみ易い性格でリオンにもよく話し掛けてくれる。ケリードと幼馴染でほとんどの行動をともにしているから不思議だ。
所属の班が違うので昨晩は一緒にいなかったが気付けばいつも一緒にいる。
もう恋人かっていうぐらいの勢いで実はデキていると噂もある。
あの陰険眼鏡男とどうやったらそんな関係を育めるのか是非とも今後の参考に話しをお聞きしたい。
「そろそろ上もうるさいんだよ。大人しく掴まってくれ」
そう言って引き金を引くアルフレッドの波動銃の威力は強力だ。
自分の魔力を込めて弾丸状にして放つ波動銃は実弾の銃に比べて見れば殺傷能力は低い。
しかし使用者の魔力が強いほど放たれる波動の範囲が広く、受けるダメージも大きい。
銃創が残らない分、打ち身や打撲、一時的な麻痺、頭や心臓に当たれば脳震盪を起こして失神する。
繰り出される攻撃を避けながら死角に逃げ込み、足元に散らばったガラスの破片を手にする。顔を上げると視線の先には小さな窓がある。リオンの体格ならギリギリ通れそうだ。
彼は流石に無理だよね。結構肩幅あるし……。
私を追って嵌って動けなくなったら面白いけど。
そんな場面を想像している場合ではない。建物の周りが騒がしくなってきた。
アルフレッドに遅れてやってきた警吏達の足音が迫ってきている。
一瞬でいい。
仕事仲間を傷つけたくはないし、仲間との戦闘は極力避けたい。
しかし、アルフレッドの俊足は怖い。執拗に追い回されたらリオンは逃げ切れるか分からない。
だが瞬発力ならリオンが勝る。
一時的に彼の動きを封じればリオンは逃げられる。
コツコツと着実に距離が縮まる音に緊張感を覚える。
パリっとアルフレッドがガラスが散乱している範囲に足を踏み入れたのが分かった。
リオンはガラスの破片をアルフレッドの胸元辺りを目がけて投げつけた。
「おっと、そうは行くか!」
ガラスを交わしてリオンに銃口を向けるが遅い。
リオンも波動銃を構えて撃ち放つ。
アルフレッドではなく、彼が避けたガラスを狙う。
「なっ!」
ガラスが飛散し、身を守るためにアルフレッドが後方に飛び退いた。
「くっそ! 待て!」
そんなの待てる訳ない。逃げるが勝ちだ。
そうしてリオンは目論み通り窓から脱出して、警吏達を撒くことに成功した。
後方からアルフレッドの声が聞こえるが構わず走り続ける。
私を追うよりも優先することがあるだろう。
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