Birthday 3rd 誕生日の秋!

 9月22日。双子にとって3度目の秋が訪れた。

 中秋の名月を一日過ぎてしまったが、すでに夕暮れの時間が早くなった真っ暗な闇夜には、庭で秋夜に鳴く虫たちを照らすかのような大きく美しい青い月がぼんやりと浮かんでいた。そしてその静かな夜のなか、ゆなとゆずるの住むヴィアレット家の屋敷からは双子を祝うためのパーティクラッカーの軽快な破裂音が鳴り響いていた。

「お嬢様!お坊ちゃま!お誕生日おめでとうございまーす!」

「「「おめでとうございまーす!!!」」」

 誰が口火を切ったか判別は出来ないが、総勢74名の家族同然の執事とメイド達が口を揃えて主である双子の誕生日を寿ぐ言葉を投げかけ、割れんばかりの拍手が響いた。

 円卓のテーブルがいくつも並ぶロビーに、執事とメイド達が等間隔に座り、その前方にゆなとゆずるの席があり、その喜びの声と音を双子は一身に受け、喜色満面の顔を浮かべた。

「おめでとうございます」

 そう言って双子の隣からジャンと玄武がそれぞれに料理皿を出してくれた。

「「ありがとう」」と双子は声を揃えて答えた。料理皿にはローストされた白身魚ににんじんやきのこが添えられており、かけられた黄色いソースからはバターのふくよかな香りが漂ってくる。

「旬の魚と野菜がこんなに食べられるなんて贅沢ねお兄様」とゆなはナプキンを膝にかけながら言うと、

「うん。昼間にもあんなに食べたのにまたお腹空いちゃったよ」とゆずるがその平たいお腹をさすりながら答えた。双子の誕生日は昼間のうちに本家の方でも家族だけで行われ、そこでも色とりどりな美食を楽しんだのであるが、やはり我が家の慣れ親しんだ味は別腹になるようだ。

「天高く馬肥ゆるとはよく言ったものね。太ってしまうわ、ドールだけど」

 双子は顔を見合わせてくすくすと笑うと、早速に夕食のご馳走に舌鼓を打った。双子の手を付けたのを確認して執事やメイド達も同じように料理に手を付け始め、しばらくの間ロビーには楽しげな歓談の時間が流れた。

「そういえばお嬢様、お坊ちゃま。シンガポールの妹様からお電話が入っておりました。ご夕食のあとでビデオ通話をしたいと」

 あらかた夕食も済み、食後の紅茶を楽しんでいると、ジャンがタブレットを手に双子に話しかけた。

「あら、キラリちゃんが?随分と久しぶりね」

「確か今年の夏にあったきりだったね」

 双子の脳裏には本家で再会した青色の瞳を持つ妹の姿がありありと映し出されていた。シンガポールを拠点としてイベント・エンターテイメントを主に手がけ世界中を飛び回っている国際色豊かな妹でもある。

「ご夕食がお済みになられましたら連絡を頂ければすぐにでも繋ぎますとおっしゃっておられました」

「あら、じゃあケーキは後にしてお話でもしようかしらね」

 ジャンは「かしこまりました」と言うと、部下のメイド達とともにてきぱきとテーブルにタブレットとマイクがセッティングしていく。

「お嬢様、お坊ちゃま。実は妹様から先ほど荷物が届きまして」

 同じくして後ろから玄武が話しかけた。

「プレゼントまで贈ってくれたのかな?」

 ゆずるがそう言うと、玄武は「おそらくは。中身は開封しておりませんが」と何やら歯切れの悪い答えを返した。双子の訝しんだ様子に「いえ、実は」と玄武が続けようとするがジャンの「繋がりました」という言葉に双子は顔をタブレットの方へと向けた。

 台に乗せられたタブレットのビデオチャットには海外を拠点に世界を飛び回る妹が人形らしいきちんとした姿で部屋に置かれた椅子に腰掛けている映像が映し出された。

「姉さーん!兄さーん!聞こえますかー!?」

 画面の向こうからは青い髪と瞳を持つ少女が手元のマイクに向かって元気よく話しかけている。

「聞こえてるわよー」

 ゆながタブレット向こうに映る妹に向かって手を振ると、それに気づいたキラリがぶんぶんと両手を画面に向かって振った。

「Hai!誕生日おめでとうございます!」

 深海のような青を基調とした落ち着いた部屋のなかに南国の芳しい花が咲いたような陽気で明るい妹の姿に双子は思わず笑みがこぼれた。

「ありがとうキラリちゃん」

「嬉しいよ」

 双子が揃ってそう答えると、キラリは満足そうに笑った。

「今年は帰ってこられるのかな?」

 ゆずるが尋ねると、キラリは指先を額に当てて考える仕草をしながら答えた。

「うーん・・当分日本に行くのは無理そうです。また東京に遊びに行きたいな」

 しばらくキラリと近況の話題に花を咲かせていると、傍に青年が一人飲み物を手にして歩み出てきた。

「あら、グラヂミルも元気そうね」

 キラリの隣に控える彼女の執事がにこやかに微笑んだ。以前あったときと変わらず知的な雰囲気を纏っている。

「Gracias señorita」

 グラヂミルがスペイン語でそう答えると、小さく腰を折った。

「私たちは元気いっぱいです!ところで」

 キラリは両腕でガッツポーズを作ると、画面越しにきょろきょろと双子の方を見渡した。

「どうかした?」

「いえ、実はお誕生日プレゼントを送りました!!もう届いてますかー?」

 キラリの言葉にはっと気づいた玄武が足早に廊下まで急ぐと何やら、玄武と露五の身長よりも高い包装紙に包まれた板状の何かが双子のもとに運び込まれてきた。

「開けてみて下さい!」

 キラリにそう促され、玄武と露五が包装紙を丁寧に剥がしていくと中にはそれぞれ一枚ずつキャンバスが収められていた。

 見れば高さは優に2mはある巨大なキャンバスが2枚、夏のマリンセーラーの服装のゆなとゆずるの姿がそれぞれ描かれていた。

「姉さんと兄さんの肖像画です!おうちに飾って下さいね!」

 画面越しの妹は楽しげにはしゃいだ様子で言うと、「それでは!良いお誕生日を!」を最後に通話を終了した。

 「うわー、でっかい」「お嬢様もお坊ちゃまもよく似合ってる」など執事やメイド達が口々に眺めていた。しばらく棗やレムたちメイドはどこにこの巨大な絵画を飾ればいいかで頭を悩ますのだった。

 



奈々未キラリ

ゆなとゆずるの妹。双子と同じく人形の身体を持っている。

英語、日本語、中国語を操るアイドルでもある。

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