第23話 覚醒

2022年10月9日 日曜日


上野の東京文化会館でのストラヴィンスキーの春の祭典は圧巻だった。洸一も陽一も魂を揺さぶられる感動を覚えた。幾度となく聞いてきたが、その度に感動は強くなりさえする気がする。20世紀最高の楽曲に挙げたいと二人は思った。


興奮冷めやらぬまま、池袋の楽器店でデジタルピアノを物色し、西武百貨店のレストラン街で中華料理を食べて帰宅したのは夜7時ごろ。まだ床に就くには早い。


「そうだ、陽一、映画見ない?」


「いいね。まだ早いし。そだ、ピアノどれにする?」


「んー。もう少し検討しよう。タッチができるだけアコースティックに近いのがいいし」


「それ大事。で、どの映画みる?」


「Lucyみない?ひさしぶりに」


陽一はうなずいた。


Lucyは2014年のフランス・アメリカ共同制作の映画で、スカーレット・ヨハンソン演じる女性が、麻薬組織に捕えられ、お腹に、脳の(通常使われない90%の)潜在能力を極限まで高める作用がある麻薬を埋め込まれた後の展開を描く映画だ。


人間の脳の能力が100%覚醒したらどうなるのか、モーガン・フリーマン演じる脳科学の権威と出会いもあり、驚異的な能力を次々に獲得し発揮していくスリリングな展開に、洸一は以前から、職業柄ということもあるが、大いにイマジネーションを搔き立てられてきた。


陽一が洸一から複製されたこのミッションも、この映画の構想と大いに関係がある。IQが飛躍的に高まるだけでなく、昔からSFで取り上げられてきたテレパシーやテレキネシスすらも可能になってしまう・・・超常現象のオカルト番組でしか扱われない超人的能力は実は存在するのかもしれない。


映画をみながら、洸一も陽一もLucyのようになれるのではないか、まだ現時点では淡い期待だが、SFではなく自分事としてあらためて考えていた。

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