第18話 蒼茫

10月4日火曜日 4:30


いつものとおり洸一と陽一は4:30に起床。


いつものとおり顔を洗ってから目覚めのコーヒーを淹れ、世界が寝静まった夜明け前のゆったりした時をもっさり過ごす。


静かな、自由な時間だ。ふたりともこの時間が一番好きだ。


マンションの11階の窓から次第に明るくなっていく街は、同じ晴れの日でも青の色合いがちがう。が、洸一の頭に浮かぶ二文字は同じ。


蒼茫


美しい言葉だ。近代文学でたまにお目にかかる言葉だ。


蒼茫に目をやりながら、洸一は昨晩の陽一とのやり取りのおかげでまた一皮むけた気がしていた。昨日までの傲慢な自分との訣別の朝だ。


「陽一、きのうはごめん。自分の厭なところをさらけ出しちゃって恥ずかしい」


陽一はただ無言でほほえむ。


洸一は当初から陽一は自分より大人だなと思っていた。感情の起伏が少ないのだ。あるいは、沸点が高いというか。いままで陽一がキレた場面をみたことがない。


もしかして、自分を複製する過程で、開発者たちは調整したのかもしれない。

まったく同じ性格、それも感受性が強い洸一とまったく同じ性格の二人の人間が長らく同居すれば衝突し危険な状況を招くリスクを下げるために。

しかしこのミッションはそこまでの技術力を持っているのだろうか。


いや、深く考えないようにしよう。憶測や邪推に支配されやすいのも自分の弱点だ。


いまはただこの静かな時間を陽一と共有できることの幸福をかみしめていよう。

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