第18話 引き寄せられる二人

 シモンとエレオノーラは、二年生に進級した。


 そして予定通りマリアンが入学してきた。



 マリアンは平民の家で生まれ、母が夫と死別後に母に連れられて母の実家の子爵家で過ごし、今度は母がサミュエルと再婚することになったので公爵家に連れられるという社会的身分が一貫して安定していない人生を送っている。


 身分が違えばそれに相応しい振る舞いも変わってくる。


 平民は貴族では当たり前の教養やマナーは学ばないし、低位貴族の学ぶべき教養やマナーは上位貴族の学ぶべき教養とマナーとはまた違う。



 彼女は入学前にサミュエルによって教養やマナーを教える講師が付けられ、時間をかけて低位貴族の教養やマナーからおさらいをして上位貴族の教養やマナーを学ぶことになった。


 籍は入れないにしても、公爵家の縁者としてある程度は常識的に振る舞えるようにという配慮から講師をつけて学ぶことになったが、ここで学んだものはいずれ何かの役に立つことだってある。


 上位貴族の教養やマナーなんて低位貴族の家庭では講師を連れて来ること自体が難しい。


 指導力に定評がある講師は引っ張りだこなので、低位貴族が声をかけても相手にされない。



 サミュエルが気を利かせて講師を手配したのに、”勉強なんて大嫌い! 先生が厳し過ぎる!”などとルイズに泣きついて、ルイズがサミュエルの意向も確認せずに勝手に解雇した。


 ルイズとマリアンはその講師を呼んで勉強できることの価値を知らぬまま簡単に解雇したのだ。


 本来ならばどれだけ望んでもそう簡単には呼べない講師であるのに。



 公爵家に来る前だってろくに勉強してこなかったマリアンは、合格者の点数で最下位に近い本当にぎりぎりの点数で入学試験を合格した。


 それ故に子爵家や男爵家の者が多い最下位層のクラスに放り込まれた。




 マリアンが入学してからいくらか時間が経った頃、シモンの側近のダミアンの暗躍でシモンとマリアンは庭園で引き合わされた。


 ダミアンはシモンがお昼休みは一人で庭園にいるのを知っていたので、庭園で二人が会うように仕向けた。


 初回ということでダミアンは二人の様子を二人からは見えない場所で観察していたが、感触は悪くなかった。


 


 二人はまた会う約束をしていたので、次がある。


 ダミアンはしばらく様子見することにした。



 様子見している間に二人は恋人同士という関係にまで発展しそうなところまで来た。


 ここまで来れば、今後の方針は大体決まる。


 ダミアンはエレオノーラをカフェの個室に呼び出して、近況を伝える。


 初回と同じくエレオノーラのメイドも同席している。



「エレオノール嬢。とりあえず二人を引き合わせてみましたが、特に此方が何も働きかけなくてもいい感じに恋人のような雰囲気になってきました。恐らくこのまま恋人になるかと思われます」


「そうなのですわね。シモン王太子殿下はあなた達側近一同にマリアンを紹介していますの?」


「いいえ。まだです」


「それならあなた達は二人の関係を祝福して下さい。側近に祝福されれば他人から認められた関係だと思って徐々に人目に付く場所で逢瀬を重ねるでしょう」


「そうならなかったとしても私が何とか言いくるめます」


「人目に付くところで逢瀬を重ねて他の生徒達の目にも触れるようになり、噂になり始めたら、私が二人に注意をしますわ。常識的な範囲内で苦言を呈します。人は反対されれば意地になるもの。私という悪役が二人の前に立ちふさがることでより一層距離が縮むでしょうね」


 エレオノーラは恋愛小説を数多く読んでおり、今のこの状況に近いシチュエーションも小説の中では数多見受けられた。


 小説を完全に信じる訳ではないが、小説に多用されるということは現実でも起こり得る出来事ということで認識しても良いだろう。


「違う反応だった場合はすぐ私がエレオノール嬢を此方に呼び出して指示を仰ぎます。今日のところはこれで。また事態が動きそうな時はお知らせします」


「ええ。よろしくお願いしますわ」



 こうしてこの日は解散した。


 その数日後、シモンとマリアンは恋人同士になり、側近にマリアンを紹介する。


 ダミアンが大袈裟なくらい祝福したので、残りの側近のポールとメルヴィルも反対はせず、二人の関係を認めた。



 二人は徐々に人目に付く場所で恋人同士の振る舞いを始めた。


 学園の生徒達の噂になり始めた頃、エレオノーラが予定通り動き始める。


 その時食堂にいたシモンとマリアンに注意をしに行ったのだ。


 エレオノールの目的は、二人を引き離すことではなく、婚約者と義妹をきちんと窘めていることを周囲にアピールすることと、二人の恋路には自分という敵がいることを二人に認識させ、ますます恋の炎を燃え上がらせることである。

 


 目的は果たせた。


 注意している場面を目撃した生徒達は”エレオノール様が注意しているのに全く聞き入れない二人”とか”婚約者が義妹を選んで辛いだろうに注意するエレオノール様が気の毒”という印象を抱いた。


 その一方でシモンとマリアンの二人はますます一緒にいるようになった。




 それからまた時間が経ち、ダミアンがある情報を掴む。


 それはエレオノーラがブロワ公爵邸の中ではマリアンを虐めているとシモンに漏らしているということだ。


 その場面を終始監視していたダミアンはすぐさまエレオノーラを呼び出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る