第17話 悪役令嬢と側近の密談

エレオノーラは15歳を迎え、サンブルヌ学園に入学することになった。


 将来オルレーヌ王国の王太子妃ではなく、ルズベリー帝国の第二皇子に嫁ぐにしても、まだ現時点ではシモンとの婚約が解消されているされている訳ではない。


 いずれ来るその時に向けて自分の味方は多い方が良い。


 人生何が起こるかわからないから人脈は作れる時には作っておくことが大切だ。



 エレオノーラはシモンの婚約者として元々有名な存在で、良くも悪くもお近づきになりたいと思う者は多い。


 話しかけてきた者一人一人に丁寧に親身になって話を聞く。


 近づいてくる者の中でエレオノーラの権力を笠に着て、好き放題しようと目論むなどエレオノーラを利用しようとする者にはきちんと牽制はしたが、基本は誰にでも優しく親切にする方向で接していた。


 結果、エレオノーラの評判は”親切で優しい次期王太子妃”というものになった。



 一方でシモンとの関わりは、最低限になっていた。


 ダンスの授業のパートナーは婚約者同士ということで組んでいたが、それ以外は関わりは殆どない。


 学園に入学するよりも以前の時点で既にシモンとの関係には溝が生まれていたが、無理矢理溝を埋める努力はしても無駄になる為、やらなかった。


 サミュエルから話を聞く前は、シモンに会わなくてもシモンの婚約者として彼を気遣うような手紙を定期的に出していた。


 そんな中でサミュエルの話を聞いたので、エレオノーラは歩み寄ることを辞めたのだ。


 手紙の返事さえ一度として出さない相手だ。


 これ以上送っても何の意味もない。



 なので同じクラスで顔を合わせるが接触はほぼない状態だった。



 エレオノーラは着々と人脈を作っていたが、他にもやらなければならないことはある。


 側近の内の一人と簡単に打ち合わせをしておくのだ。


 来年、シモンとエレオノーラが二年生に進級すると、マリアンが入学する。



 今のところマリアンをシモンの相手として想定している理由はある。


 まず、真っ当な貴族令嬢はエレオノーラからシモンを奪って婚約者になり替わろうという思考は持たない。


 そんなことをすれば、いくらシモンがその人を選んだと言っても、ブロワ公爵家に喧嘩を売ったとみなされ、社交界の爪弾きに遭い、実家に迷惑をかけることになるからだ。


 だから内心エレオノールが婚約者であることを面白くないと思っていても実際に略奪しようとは思わない。



 しかし、そんな思考を持っていなければ?


 マリアンはルイズのやったことを間近で見ている上、”欲しいものは奪う”思考をルイズから植え付けられていると思われる。


 マリアンはエレオノーラのものを奪いたがる為、”エレオノーラの婚約者”ということを吹き込めば、シモンをエレオノーラから略奪しようとするだろう。


 しかも同じブロワ公爵家の者同士だから、家庭内の問題で片をつけることになる。



 シモンとマリアン引き合わせや誘導、シモン側の動きはどうなっているのか等、側近側に一人エレオノーラ側の味方がいればやりやすい。



 シモンの側近のダミアン・ペルソナ。


 ペルソナ伯爵家の当主は代々主要な大臣職に就いていることが多いが、実は裏稼業で諜報活動をしている。


 金貨を積めば殺人を除いて大体の依頼には答えてくれる。


 サミュエルはペルソナ伯爵家の裏稼業は知っていたから、サミュエルからペルソナ伯爵家に依頼をして、ダミアンが引き受けることになった。



 二人の話は学園の放課後、城下町のカフェの個室ですることになった。


 個室で男女二人きりというのは外聞が悪いので、エレオノーラは自分のメイドのアネットを着飾らせて同席させる。


 同席はしてもアネットは話に参加しない。


「こんにちは、エレオノール嬢。わざわざ来てもらってすみません」


「御機嫌よう、ペルソナ様。こちらこそ引き受けて頂いてありがとうございます。側近という立場なのに力をお借りすることになってしまって申し訳ないですわ」


「自分の家の稼業ですから。ここだけの話、報酬も相場よりだいぶ多めに頂きましたので。閣下から依頼は伺っておりますが、一応確認をと思いまして。来年、マリアン嬢が入学してくるので、マリアン嬢とシモン王太子殿下を引き合わせたり、此方側の動きがどうなっているのかの情報を流すということでよろしいですか?」


「ええ、それで合っているわ。場合によっては王太子殿下とマリアン、それぞれに対して扇動することもしてもらうかもしれません。実際どうやって婚約破棄まで持って行くかはまだ決めてはおりませんが」


「そうですね。まず二人を引き合わせてみないとわからない部分は多々あると思います。進級して少し経った頃にマリアン嬢に接触して二人が会うよう仕向けてみます。それで様子を見ながら方針を決めますね。人と人なので勿論殿下とマリアン嬢で予定通りの人間関係になるかはわかりませんので、もし予定通りにならなければ違う方法で婚約破棄になるようしなければなりません」


「わかりましたわ。私もその可能性は視野にいれております。依頼内容もまだ始まっていないし、今日のところはご挨拶と方針の確認だけなのでこれで解散ですが、依頼内容が始まったら打ち合わせをしましょう」


「はい。学園ではお互い不干渉なので、私を呼び出したい時は学園の下駄箱にお手紙を入れておいて下さい。今日のところは失礼します」



 こうしてエレオノーラとシモンの側近のダミアンは接触し、婚約破棄に向けて動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る