第11話 ルイズの末路と呼び水

 結局、ルイズはクリスティーンを毒殺した殺人罪により鉱山奴隷として終身刑を受けることになった。


 正確に言うと鉱山奴隷として働かされている男性奴隷の性処理要員だ。


 昼間は落石の危険のある危険な鉱山で労働、夜は男性奴隷の相手。


 重罪を犯した女性の末路としては悲惨な部類に入る。


 不特定多数の男性を相手にするという点では娼婦と変わらないが、ルイズが相手をさせられる男性は労働者の汚い粗暴な男性ばかりで、しかもルイズは金を貰えず無償奉仕だ。


 しかも相手をしたくないと拒否した場合は鞭打ちなどの体罰が執行され、余計に状況が悪くなるだけである。


 この刑を受けた者は精神を病むか、鉱山という過酷な労働環境が原因で病気になるかで長くは生きられない。



 サミュエルと離縁し、実家の子爵家に復籍することが出来ず、その身分が平民になったことでルイズは貴族的な配慮を受けることが出来なかった。


 サミュエルは苦しみが一瞬で終わる死刑よりも生きている限りずっと苦しみを与える刑罰を望んでいたので、この判決に異論はない。



 判決が出てから三日後、ルイズは粗末な馬車に乗せられて刑の執行場所であるオルレーヌ王国北方に位置するタルブ鉱山へと送られた。


 その際、身の回りのものは一切持って行けず、最後に娘のマリアンに会うことも許されなかった。



 因みにルイズが鉱山に送られる頃には、マリアンはブロワ公爵家から王家へ嫁いだのではなく、ルイズの実家のサレット子爵家から王家に嫁いでいることがサミュエルの工作で徐々に認識され始めていた。

 


 ルイズが起こした事件は、事件の詳細、経緯、彼女が受ける刑罰など全てが貴族社会に広まった。


 その結果、思わぬところに注目が集まった。


 ルイズが後に事件を起こすことになる始まりの部分――現国王陛下が王太子時代に起こしたサンブルヌ学園の卒業パーティーでの婚約破棄だ。


 現国王の婚約破棄は当時緘口令は敷かれており、今日こんにちまでその沈黙は守られていたが、ルイズの事件の詳細を聞き、”そう言えば昔そんな出来事があったな”と口に出す者がちらほらと現れ始めた。


 当時の学園に在籍し、そのパーティーに参加していた者達の記憶を呼び覚ましたのだ。


 今、学園に在籍している生徒達の親世代である。



 ただでさえ貴族達はシモンが卒業パーティーで行った断罪と新たな婚約発表の件で、シモンに不信や疑念を募らせているのに、その親である国王も何の瑕疵もなかった令嬢を恋人と結婚したいという自分のわがままで公衆の面前で一方的に婚約破棄を突き付けていたことまで明るみになっていくと、不信や疑念の対象はシモンだけでなく王家そのものに向いてくる。


 国王陛下もシモンも決められていた婚約者を蔑ろにして恋人を作り、最終的には恋人と結婚した。


 シモンの場合はエレオノールの処刑で婚約相手が死亡した為、婚約者の座は空席にはなったが、空席に座ったのはシモンの恋人だ。



 そして、それだけではない。


 王家はクリスティーン、エレオノールと母娘二代にわたって不義理なことをしている。


 宰相であり、ブロワ公爵家の当主でもあるサミュエルは、婚約破棄されたクリスティーンを公爵家の妻として迎え入れ、エレオノールが生まれた。


 クリスティーンにした仕打ちを忘れたのか王家側がシモンの妻にエレオノールを所望したが、シモンは結局恋人を作る。



 婚約者の気持ちを繋ぎ留められなかったクリスティーンとエレオノールの二人に責任があるとしても、仮にも王族に生まれた以上、国の為に政略的バランス等を考慮して結ばれた婚約よりも自分の気持ちを優先するのはやってはいけないことだ。


 それをするならば国を導く王族たる資格はない。

 


 こうしてルイズの事件は貴族社会の人々に過去の出来事の記憶を呼び起こす呼び水となった。

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