第7話

 「ねえ結月」


 「ん?」


 「私と付き合ってみない?二番目で良いから」


 「うーん」


 日曜日の夕方、結月は晶子のパジャマを着てテレビのニュースを観ている。体育座りをして。


 「そういうのはよくわからない」


 晶子は苦笑した。


 「今逃げたね。時には、優しい嘘も大切かもしれないよ」


 「私はプライベートでは嘘はつかないようにしているの。本当の事を言わない時はあるけれども」


 結月はあまり正面衝突はしない。ひらりひらりとかわす。

 一方で冷たいし、何を考えているのかはわからない。結月がそのスタンスを崩しているのは、凛と晶子だ。


 「凛ちゃんは幸せだね。こんな美人に惚れられて」


 結月は聞こえているのか聞こえていないのかわからない様子で、スマホをいじっていた。




***


 

 


 凛の退院が近づいてきた。

 足の付け根の動脈から管を入れる抗がん剤治療はあと一回。

 陽子線治療は終了した。


 別室で医師から説明があった。医師はレントゲンを見せて解説した。

 

 「舌ガンは消失しています。他の場所への転移は見られません。念のため、もう一回だけ抗がん剤治療をします」


 凛は安堵した。母親は目に涙を浮かべた。

 



***



 凛は退院した。

 自宅へ帰るわけだが、凛は自宅に着くなり母親に我が儘を言う。


 「結月先輩の家に行きたい。先輩と一緒に暮らしたいの」


 「結月さんにも生活ってものがあるでしょう。働いていて、受験も控えて。第一、結月さんはそれを望んでいるの?」


 凛はどうしてこうも我が儘になってしまったのか。


 「治療したとはいえ、ステージ四のガンだよ。好きな事をして過ごしたいよ」


 夕方、凛は結月にメッセージを送った。

 

 『次はいつ会えるの?』


 返信はなかなか返ってこない。


 結月はどう答えるか悩んでいた。



 結月は、晶子が仕事をしているバーに行った。

 

 「一杯飲みたくてね」


 ウイスキーのロックを頼む。丸く削られた氷がグラスの大半を占める。


 「カウンセリングならするよ。高いけれどもね」


 結月はウイスキーを一口飲んだ。


 「凛が退院したの。それでね、私と同居したいらしい」


 「えっ?」


 「治療前はステージ四だったしいつまで生きれるかわからないから、好きなことをしたいらしい」


 「ガンは凛ちゃんを壊したね」


 結月はウイスキーをもう一口飲んだ。


 「体力が落ちているから今すぐには無理だけれども、打ち込める趣味を作って専念してみるのも良いよって私は言った」


 「結月がそこまで真剣にアドバイスするのも奇跡だっていうのに」


 結月は黒ビールをオーダーする。


 「私も思わせ振りな事を言ってしまったよ。後悔してる」


 「何て言ったの?」

 

 「続きは退院してからしようって。凛は不安定だったから、その場凌ぎで」


 「たち悪いよ。聞く限り、凛ちゃんみたいな子は純情そうだから直球で来るよ。」


 結月は黒ビールをゴクゴクと飲んだ。


 晶子は結月にこう言った。


 「一応言うけれども、病気になったら振るっていうのは最悪な事だから覚悟はしたほうがいいよ」


 結月は目を潤ませながら言う。


 「もう疲れたんだよ。このままだと、凛とあの世に道連れかもね」


 晶子は哀れむように言った。


 「そんな...。結月、本当に病んでいるんだね。さっきの発言は軽率だった。謝るよ。」

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