最終回 

「おい、これはどうなってるんだ!」


 俺は血の涙を流しながら。

 教授室に駆け込んだ。


「おお、須田君よ。今回の一連の騒動ではご苦労だったな」

「今からの騒動で苦労するじゃねえかよ! なんだよあの借金取りたちは。人生ゲームは夢じゃなかったのかよ」

「夢? あの人生ゲームはまさに呪われしゲーム。人生を狂わせられながら、どれだけ耐えられるかという、そんなゲームじゃ」

「どんなゲームじゃ! しかもなんで人間の俺が代表なんだよ!」


 おかげさまで人生狂いまくってるよ!

 借金どれだけあると思ってるんだ。


「まあまあ。これから仕事を頑張ってコツコツ返していけばそれなりの人生になるだろう。頑張りたまえ」

「ちなみにだけど俺の借金って総額でいくらになったんすか?」

「たしか七億」

「七億!?」


 もう、宝くじが当たっても返せない額だった。

 この先俺は、もし奇跡的に宝くじが当たったところで、「やったー借金減ったー!」としか喜べないということ、か。


「……え、嫌だよ! 絶対嫌だ! 俺は認めないぞ! あ、あんなの無効だって!」

「往生際が悪いわよ須田」

「……妖子さん」


 奥から妖子さんが。

 涼し気な様子だけど、自分が何やったかわかってんのか?


「須田。借金は漢の勲章よ。恥じることはないわ」

「待て、それは詭弁だ。お前のせいでこうなったんだろ」

「私のせいじゃないわ。あんたがもっとモテる人間だったら最後の課題もクリアして借金どころかこの世のハーレムを体現できてたのよ」

「お前が力封印したからだろうが」

「ずるしようとするからよ。あなたはもっと人間力とやらを磨きなさいよ」

「お前にだけは言われたくないわ!」


 責任転嫁もいいところだ。

 俺は巻き込まれて人生無茶苦茶にされただけだ。

 こんなことなら最初から天狗についていくか、それこそ誰かと一晩楽しんでからぶっ殺された方がましだったんじゃねえか?


「まあ待ちたまえ二人とも。ここで喧嘩しても借金もなくならんし、勝負の結果も変わらんぞ」

「……そういえば、あの後勝負はどうなった? まさか」

「それが、引き分けよ」

「引き分け?」


 なんだその消化不良な結果は。

 

「ええ。あの後人生ゲームの不具合で中止になって、再試合になったわ」

「いや、だったら借金のことも」

「だから、もう一度あのゲームに挑戦して、クリアすれば今までの借金も全部チャラになるわ」

「……でも、もし同じ結果になったら」

「その分が上乗せされるわね」

「リスクしかねえじゃんか。お前がやれよ」

「いやよ。あなたがやらないと借金なんて消えないわよ」

「……クソッ。ちょっと考えるけど、いい返事は期待するなよ」


 俺は、教授室を飛び出してさっさと帰路についた。


 そしてアパートに戻ると玄関先を掃除している麒麟が。


「りんさん」

「あら、須田君。なんか女の子のお客さんがいっぱい来てたけど……あれどういうこと?」

「え、いや、あれは、その」

「なんてね。妖子の変なゲームに巻き込まれたんでしょ。知ってる。でも、覚悟を決めたってことなのね」

「覚悟? いや、俺はただ巻き込まれて」

「いいのいいの。私は麒麟。所詮人とは縁遠い存在なのかもしれません。でも、チャンスがあればすぐにでもあなたを奪うつもりだと、狐にはそう釘をさしておくから」

「な、何の話だ?」

「じゃあ、達者で。でも、大学の間くらいは仲良くしてね」


 麒麟は少し寂しそうに、管理人室に戻っていく。


 その姿を見届けてから俺は、真っ黒こげになった部屋に戻り。

 やっぱりここでは寝れないからと、もう一度外をさまようことにした。



「妖子ちゃんも素直やないなあー。あのゲームを須田っちに受けさせるなんて本気やんけ」

「うるさいわよつらら、黙って飲みなさい」


 居酒屋にて。

 うちことつららと、カミラと妖子が飲み会中。


「妖子ちゃん、あれってたしか、試練の盤上とかいう妖怪の長の配偶者になるものが受ける洗礼の儀でしょ? それを戦争の題材なんて嘘ついて、あろうことか敵将にまで協力してもらって受けさせるなんて手が込みすぎてない?」

「だからそんなことは一言も言ってないでしょ。あれは須田が妖怪の世界に首を突っ込んだ時に、妖怪たちから認められるようにってことで特別に受けさせてやってるだけで」

「でも、須田っちがクリアしてしもたら、いよいよ祝言なんねんで? いい加減ちっとは素直になったりーな。須田、好っきゃでって一言で済むこっちゃろ」

「誰があんな奴にいうもんですか! あのグズめ! 死ね死ね死ね! ていうか酒! 飲め!」


 荒れとんなあ妖子ちゃん。

 でも、こうも素直やない性格ってのもほんま、かわいそうっちゅうかなんちゅうか。


 でも、その方がええんやけど。

 それやったらうちらにもまだ、チャンスはあんねんから。


「はよせえへんかったら須田っち、寝取られてまうで? スケベなんやし、すぐかわいい子に寄ってこられる体質は力封印しても変わらへんねんから」

「あ、あんなゴミのことを好きになる女なんていないわよ絶対」

「そうやって胡坐かいとったら痛い目あうでー知らんでーにやにや」

「つらら、これ以上言ったら燃やすわよ」

「おーこわいこわい。まあ、あんじょうやりなはれ」


 まあ、天狗の優と妖子ちゃんは高校時代の悪友なんて聞くし。

 きっと彼女に協力してもらいたかったんやろうけど。

 素直やないからくだらんことで喧嘩になってすぐ戦争なんて起きんねん。

 ほんま、さっさと大人になりいや。


「……あれ、三人ともどうしたんだ?」

「お、ええとこきたがな須田っち。今ちょうどあんたのことをな」

「うるさい雪女! 黙って飲め!」

「へいへい。まあ、一緒に飲もうや」

「で、でも」

「ええから。借金だらけの身で飲み代の一つ二つケチっても始まらへんで」

「そ、そうだな」

「ほなここ座り。うちと妖子ちゃんでサンドイッチや」


 今日ばっかりは。

 須田っちに妖子ちゃんの隣を譲っちゃる。

 ほんまはうちの隣だけでええねんけどなあ。

 ま、今回は狐に花をもたせたろうかいな。

 一応、妖子ちゃんなりに頑張っとるわけやし。


「……妖子さん、俺」

「何よ。借金のことなら謝らないわよ」

「いいよもう。それに次勝ったらチャラなんだろ?」

「ええ、そうね。でもあんたがまともにあれを突破できるかしらね」

「そんな心配するくらいなら最初からやらせんな。マジでお前、人をなんだと思ってるんだよ」

「ふん。あんたこそ女に色目ばっか使ってるからこんな目に遭うんでしょうが」

「別に俺が誰となにしようと勝手だろ」

「ええそうかもね、でも誰が毎度毎度助けてやってると思ってんのよ」

「それはまあ、助かってるけど。ていうか飲みすぎじゃないのか? 酒臭いぞ」

「うるさい死ねゴミ。あんたもさっさと飲みなさいよ男のくせに」

「はいはい。でも店の人に迷惑かけたらまずいから俺はお茶にするよ」

「ふーん。なら潰れたら連れて帰りなさいよちゃんと」

「いつものことだろ。わかってる」


 なあんかなあ。

 通じ合ってんねんなあこの二人って。

 あーあ、そのくせほんま素直やないというか。

 見てるこっちがあほらしなるわ。


「カミラ、うちら先に帰んで」

「え、うん。じゃあお二人とも、お先」


 まあ、関西人は空気が読めるんや。

 そんなに睨まんでも、さっさと帰るがな。

 邪魔せえへんから、ゆっくり話しや。


「ほな、さいなら」


 須田っちも須田っちで。

 自分の魅力に気づいてないようやけど。


 あんたみたいなわかりやすいスケベのダメ男でもな。

 人のために真剣になって体張れる男っちゅうんはモテるんやで。


 来世では、せいぜい狐につかまらんように祈っときや。



「妖子さん、妖子さん帰るよ」

「もう、飲めない……」

「おいおい……仕方ないなあ」


 いつものように。

 妖子さんをおんぶしてアパートに帰る。


 酒臭い彼女はぐずぐずと、まだ飲めるとかこのゴミだとか、まあこれもいつものことだけど。


「……まあ、そんなお前がいいのかもって、ほんと俺は女運がないやつだな」


 どうせ聞こえてないだろうと呟いた。

 すると。


「私こそ男運がないわよ……なんであんたなんかのこと……」


 寝言のように。

 そう呟いて彼女は眠ってしまった。


 ちょっとだけ。

 その言葉の意味を考えて。


 でも、考えるのをやめた。


 酒飲んでるし。

 ていうか意識ないしもう。


 いつか、はっきりそんなことを言い合える日が来るのかもしれないけど。

 さて、こいつとなら一生だってこのままな気がする。


 一生。

 ずっと、このまま。


 でも、それも悪くないかもな。


 はは。

 大学行ってねえなあ俺。

 借金返済問題が解決したら、それこそ大学行かないとな。


 その時はこいつも。

 一緒に授業くらいは受けてもらう。


 散々振り回してんだから。

 それくらいの俺のわがままは訊けよな。


 ……って、まあ素直に従うとは思えんが。


 でも、まだ俺たちの大学生活は序盤も序盤で。

 これからの数年間でどうせ俺は何回も死にかけて。

 また借金とか地獄とか、今度は天国にも行ってしまうかもだけど。


 でも、まあ。


 仲間ができたし。

 妖子さんがいるし。


 それもそれで、楽しいのかもな。


 この世のものとは思えない軽い彼女のわずかな重みを感じながら夜道を行く。


 今日は満月だ。


 きっとカミラは家で血を欲してムラムラしてるだろう。


 つららは、またくだらないことで悩んでるのかも。


 妖子さんは、目が覚めたらどうせまた俺に突っかかってくるに違いないし。

 なんならりんさんと朝からまた喧嘩かもな。


 うん。


 なんか、楽しいな。


 よーし。


 明日からも頑張るかあ!



 第一部 完。



あとがき


 まずここまでお読みいただいた皆様へ、この場をもって感謝を申し上げさせていただきます。


 本当にありがとうございました。


 元々、以前書いていた小説の続編としてギャグ多めで妖怪の紹介を兼ねてあれこれ書く予定だったのが、まあ色々はしゃぎすぎてハチャメチャになってしまいましたけど笑


 でも、この物語は好きなのでまたいつの日か、続きを書いてみたいと思っています。


 そのうえで、私自身はより多くの題材をテーマとした小説をたくさん発表して、皆さまに見ていただきたいという気持ちも強く、この話は一旦ここまでとさせていただきました。


 また、須田や妖子のくだらない冒険譚が始まった際は、是非応援してあげてください。


 ここまで約二か月間、本当にありがとうございました。


 今後とも明石龍之介をよろしくお願いいたします。




 

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半妖美女たちの相談にのることになったのだが、そのせいで授業が全くうけれません 明石龍之介 @daikibarbara1988

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