高等会員 内藤辰巳

 日本ガラパゴス学会総本部錬成道場。この長ったらしい名称の建物に潜入してから2時間は経つ。

 俺は、鷲本さんの秘密を知った。そして、この学会がどのような組織なのか、どのような人が入信するのかも分かった。いや、分かった気がしただけなのだが。

俺は鷲本さんに何の慰めの言葉もかけられなかった。思えば、あれから鷲本さんの口数も減っている。重い空気が澱むなか、2人は薄暗い通路を歩いていた。




 通路の奥から、長身の男が歩いてくるのが見えた。あたりが暗いため、顔は見えない。

「あ、内藤さん!お疲れ様です!」

男の顔が露わになった瞬間、彼女は口を開いた。どうやらあの男は鷲本さんの上司又は先輩のようだ。

シルクのスーツを纏い、臙脂色のネクタイをダブルノットで締めている。168cmの俺よりひとまわり大きい。正直、イケメンといって差し支えないであろう。

「鷲本さんもお疲れ様。今日もかわいいね」

前言撤回、こいつはどうやらプレイボーイのようだ。''大宮のドンファン''という肩書をくれてやるから会員証の横にぶら下げてろ。

「鷲本さん、そのお隣のお方は?」

「この方は鹿島秀俊さんです!学会の見学に来てもらいました!」

とりあえず挨拶をしておこう。

「どうも、鹿島秀俊です。宜しくお願いします」

「私はガラパゴス学会高等会員の内藤辰巳です。どうぞ宜しくお願い致します

す」

高等会員___。このお方は、かなり上の役職のようだ。

「大事な見学の最中を邪魔して悪かったよ。ここの学会はいい所だから、ゆっくりしていってね」

「いやいや、こちらこそ引き止めてしまって…内藤さん、ご奉仕頑張ってください!」

「ありがとう、君を見ていると生きる活力が湧いてくる。今度また新型機種について話し合おう!」


 

 大宮のドンファンは奥の第二会議室たる所に消えていった。情けない、少し妬いてしまった。そらそうだ。あんな可愛い美少女がモテないわけないんだから。また、あのような男も同様にね。

「内藤さんはとても良い人なので、鹿島さんもぜひ仲良くしてほしいです!ガラパゴス学会は横社会なので、高等会員さんとも気軽にお話しができるというのも良いポイントですねっ」


 宗教は上下関係が厳しいというイメージがあったので少し驚いた。ドンファンも別に悪い人ではないんだろう。会館の中で見かける人は基本若い。宗教というよりかは、現代社会のSNSや人間関係に疲れ切った人たちの社交場という感じだ。

皆、世界にスマホが普及してから何かしらのストレスや疲れを感じている事だろう。LINEのたった一文で友情に傷を入れてしまった少女もいる。そのような人々の心を救済するのがこの学会なのかもしれない。そんなことを考えていた。




「鹿島さん、大事なことをひとつ伝え忘れていました。」

「へ、何なんですか?」

「ガラパゴス学会員は、一度でもスマートフォンを使用してしまうと異端者としてガラパゴス諮問委員会に処罰されてしまいます」

おー怖!!これ、めっちゃ大事なことだよねぇ!!全然社交場じゃないじゃん!やっぱカルトだよねこの団体!

「その処罰内容が、『異端者の部屋』という独房に1ヶ月間服役するか、地下室の拷問部屋で1日中絞られるかの二択になっています」

酷い!重い!ディストピア小説さながらの処罰に恐怖で震えが止まらない。

「まぁ、スマホを触らなきゃ良いだけなんで、平気ですよね♪」

そう言うと、彼女は顔を綻ばせた。ああコワイコワイ。背筋がゾクゾクする。 鷲本さんこんなこと言う一面もあるのね。なんかクセになりますねコレ。





「じゃあ、最後に屋上へ行きましょう!景色がとにかくすごいんですよ!」

 彼女に手を引っ張られ、階段を昇る。手の内が暖かい。これが人の温もりか。あのさぁ!こういうちょっとした仕草が勘違い男子を量産しちゃうのよ!やめた方がいいって!…実際、俺も勘違い男子の一員なんですけどね。はい。

 


 

 階段が途切れた先にある、少しひらけたスペースに足を踏み入れた。この少し錆びついた扉の先に絶景がひろがっているのか。鷲本さんが屋上の扉のドアノブを捻る。 




 その先には_______



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