第19話 超うまいヤツがいる!

2004年4月15日 

 桃園中央高校1年8組は普通科の中の特殊学級「芸術コース」、推薦でも一般入試でも実技の静物デッサンテストを突破した「超中学級」と思われる画力の美術専攻28人と、こちらも「超中学級」有段者の書道専攻12人が机を並べた。合わせて40人中、男子は美術専攻の僅か3人だけ、ほか37人は女子だ。男子は市村雅治、林原達郎、山鹿麻矢で五十音順に出席番号で席順も決まっていたので麻矢は後列、市村は前列、林原は中列と女子たちの中に埋もれるように点在。基礎学科はこの40人での授業だが、専門科目はそれぞれの準備室へ移動しての授業だった。

 美術専攻の28人、最初の課題は自画像デッサンからのアクリル絵の具での彩色。5月の連休後に行われる父兄参観日を兼ねた「学内作品展示」に最初の作品として展示しなければならないので、肩慣らし力試しがてらの習作だが迅速に仕上げなければならない。これからは全ジャンル部門で高校生、学生、一般公募を問わずコンクールへの応募を前提とした作業が続くので、のんびりとはしていられない。自画像こそ全員展示だが、それ以降の作品は部門ごとに28人と専門分野の常勤講師(教師)や非常勤講師らを含めた評価で最優秀とならないと応募候補にはならない。まずは学内分野で一番を目指さなくてはならないのだ。

 鉛筆6Bを1ダース、鉛筆削り器による削りでは黒芯の部分が短くデッサンには不向きなのでカッターナイフで黒芯が長めに出るように調整、いろいろな角度で描線に強弱を付けつつ、芯が短くなったら、すぐに次の鉛筆にチェンジしていく。持参したミラーの角度を変えながらデッサンを仕上げていく。

 デッサンとはフランス語、日本語では素描(そびょう)、「すがき」とも読める。英語ではドローイング。「クロッキー」というのはドローイング由来の早描きのスケッチで、出だしの下描きはクロッキー的になり、そこから描線を定めていくのだ。

「デッサンの基本は対象物をよく見ること」と言う平松先生の声が鉛筆を走らせる音だけの教室に響いた。

 評価の時間、一部の女子がアニメ超のタッチでデフォルメ美化したデッサンがあったのは「似顔絵としての作風としてはアリよね、特徴を捉えていればだけど。でも今回はいかに今の姿を忠実に表現するかですから」。~そんな指摘を受けたのが森本舞衣子、そのままバイトで似顔絵描きで稼げそうな画力だ。麻矢は「これにどんな色を乗せるんだろう」と楽しみだった。

 「力強いラインで自分を表現できたのでは」と平松先生から一定の評価を受けたのが男子3人、林原達郎、市村雅治、山鹿麻矢だった。特に麻矢が「凄い!」と思ったのが市村の写実性と林原の陰影強弱の巧みさ。女子たちにも「凄腕」が多く、さすがに県内でもナンバーワンと評価も高い桃園中央高校「芸術コース」のレベルの高さを実感。「林原君と市村君には負けてるな」と麻矢は思った。

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