第11話 麻矢覚醒!? 狭き門を突破

2004年2月14日

 バレンタインデーであるが、受験生にはそれどころではない。インフルエンザの流行で3年1組に続いて2組も学級閉鎖したため受験対策授業が3組より大幅に遅れているのに有名私立高校の受験日は来週にせまっていたからだ。

 そこで3年1組と2組は普段なら放課後のホームルームの時間が30分延長されて対策授業に振り替えられることになっていたが、山鹿麻矢は5時限目が終わったら職員室に呼びだされた。

 「失礼しまーす、あっ(野上)先生」

 「山鹿麻矢、おめでとう! 合格!!」

 「おっ、はい。やった。…ありがとうございます」

 桃園中央高校の普通科・芸術コース美術専攻への推薦入学が決定した麻矢。実は受験日の静物デッサンの出来の良さに合格の手応えを予感していた。デッサンの題材は当日発表だった耐火煉瓦(れんが)一つ。煉瓦の質感を十分に表現できたと確信していたからだ。

 美術部からは副部長の山本さんら女子3人も一緒に受験したが不合格だったとのことで、3人とも3月の一般受験で再チャレンジするため部活でのデッサン練習は継続するらしい。 

 麻矢は有頂天だった。「ひょっとして(自分って)天才かも?」

 無理もない、福岡県の高校は4学区に分かれており、各学区の中学はその学区内の高校しか受験できないのだが、桃園中央高校の普通科・芸術コースに限っては県内4学区のどこからでも受験できるからで、推薦受験といえどもかなりの難関になっていた。しかも前年の夏に行われた体験授業会に参加して練習作品が高評価された人も推薦受験している中で、体験授業会にも参加していない麻矢が28人内に入ったのだから。みんなより一足早く高校受験が終わった麻矢、あとはじっくりと部活の卒業作品に専念できるようになった。

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