第10話 病み上がりにベストパフォーマンス?

2004年1月27日

 寒波の到来で朝から雪がちらついた九州の北部。南国イメージがある九州だが、それが当てはまるのは太平洋に面する大分県の南部から宮崎県と鹿児島県で、福岡県から佐賀県、長崎県の北部が日本海に面するために実は日本海側気候、1月と2月は気温が3度以上にならない日もある。

 インフルエンザによる高熱で喉の渇きを癒すのに食物繊維を多く含んだファイバードリンクをガブのみしたのが響いて腹痛と下痢も併発してしまった山鹿麻矢が迎えた推薦受験日。3日前から平熱になり食欲も元に戻ったようだが、やや頬がシュッとなりすぎてヤツれた面持ち。父親からはファイバードリンク禁止令が発令されてしまった。

 眼差しに元気が戻ったようだが着替えのときも何となくヨロヨロしたように見えたので母親が受験会場の桃園中央高校まで車に乗せていくことにした。車内で~終わったらお昼ごろには帰り着くでしょ、カップ麺を食べるならお湯に気をつけなさいよ~とか母親に言われているのが遠くに聞こえるようだった。病み上がりでボーッとした感じではなく、麻矢の中で何かが研ぎ澄まされていく~そんな不思議な感覚だった。


 2時間足らずで実技の静物デッサンと面接が終了。職員らしき人が合否については各中学へ連絡されることなどを説明していたが、なんとなく耳に入らないままバス停までの坂を下った麻矢。雪はやんでおり、ポケットに入れてきた簡易カイロがまだ温かで朝ほどの寒さではない。

 携帯電話で時刻を確認すると次のバスまで10分以上あったのでバス通り沿いを歩くことにした。山手に面した通りなのでアップダウンが交互にあって変化に富んでいたので見上げたり見下ろしたりと目線から見える景色の変化も歩いていて退屈しない。

 何か所かバス停を通り越したら乗ってもよかったバスが走り去ってしまった。そろそろ中間点である黒崎駅前への交差点、バスに乗ってきても乗り換える場所だが、そのまま神社の大鳥居や大きな病院を通り過ぎ、長崎街道の黒崎宿の看板を見たら歩いてみたくなった。国道の裏道として松並木が500メートル程度が整備保存されていた。初めて歩いた「いにしえの街道」はタイムスリップしたような感覚で不思議だった。

 通り抜けると右手がバス通りの国道、交差点には歩道橋が架かっており、横断歩道はないので長崎街道に並行する国道沿いに引き返さない以外はどこに向かうにしてもそれを登って降りなければいけない。車高の高い大型車両も通行するので階段は多いが段差は小さめだ。二段飛ばしで駆け登ると、この日一番の見晴らしの良さで、空はすっかり青空に晴れわたっていた。

 この国道200号線はこの付近を南北に貫いており、北側はJRの線路を立体交差で越える盛り上がりが目視できた。南側は帆柱・皿倉山系に属する山々に吸い込まれるように見える。麻矢はスケッチでそれらの景色を切り取るようにしばらく眺めていた。

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