第38話

美世の顔が、体が、元通りの姿へと変化していく。



「美世……」



あたしは美世の体の上に乗ったまま茫然として動けなかった。



手に握られたナイフだけがやけにリアルで、慌てて手を離した。



「美世……なんで……」



ボロボロになった美世の頬に触れると、ヌルリとした血の感触がした。



あたしが、殺した。



美世は生きていたのに、あたしが殺した。



さっきまで美世を殺す事に必死だったのに、途端に怖くなった。



「ああ……、だって……だって、殺さなきゃ……」



そう呟きながら、美世から離れた。



だって。



だって。



だって。



あぁ、そうだった。



あたしはいつもそうだ。



千恵美をイジメたときも『だって』と言い訳を繰り返していたんだ。



「だって……! だって美世のこと怖かったんだもん! だって、殺さなきゃダメだったんだもん!!」



言いながら涙がボロボロとこぼれていた。



「一番悪いのは美世だよ! だからこんなことになったんだよ!」



あたしは誰ともなく叫び続けた。



あたしは悪くない。



あたしだって被害者だ。



……本当に?



ゆっくりと視線をモニターへと移した。



歪んだ視界の中にみんなからのコメントが流れて行くのが見える。



《人殺し》



《自覚のないイジメっ子》



《タチ悪い》



《相手に押し付けすぎ》



《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》《人殺し》



「あああぁぁぁぁっ!」



あたしは頭をかかえてうずくまった。



どれだけ言い訳したって、美世を殺したのはあたしだった。



千恵美を殴ったのも、蹴ったのも、あたしだった。



主防犯じゃなければいいなんて……そんなこと、誰も思ってくれていなかった。

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