第37話

~スミレサイド~


「ガアアアアア!」



叫び声と共に美世が両手を広げて襲い掛かって来た。



「いやぁ!」



悲鳴を上げ、キツク目を閉じてナイフを振り回す。



ナイフの先が何かにぶつかり、何かを切り裂く感覚が伝わっていた。



そっと目を開けてみると、あたしの振り回したナイフが美世の腕に突き刺さっていた。



筋肉質な腕からダラダラと血が流れ出す。



しかし美世は動じなかった。



牙をむき出しにして襲い掛かって来る。



「やめて美世! 目を覚まして!」



刺さったナイフを引き抜き、再び美世へ突き立てた。



筋肉が千切れる感触がする。



モニター上では《もっとやれ!》《リアルソンビゲームだ!》《殺せ!》と言った文字が大量に流れ出す。



覆面男の笑い声が部屋の中に充満して聞こえて来る。



美世の右腕があたしの首を掴んだ。



片手なのにすごい力だ。



あたしは呼吸ができなくなり、目を見開いた。



それでも持っていたナイフだけは絶対に手から離すまいと、握りしめる。



美世の手が更にきつく食い込んできて、あたしの体を持ち上げた。



足が宙に浮き、体中が熱を帯びたように感じられた。



叫びたいのに、気道は完全にふさがれている。



涙と鼻水が自然と流れ出して来た。



このままじゃ、死ぬ……!



あたしは握りしめていたナイフを美世の手に突き刺した。



親指の付け根を切り裂いたようで、不意に美世の力が抜けた。



そのまま落下するあたしの体。



美世の親指が床に転がった。



激しくせき込み、空気を吸い込む。



でも、のんびりしている時間はなかった。



美世はあたしへ向けて牙をむく。



「あああああああああ!!」



あたしは雄たけびを上げながら、その口めがけてナイフを突き出した。



喉の奥にナイフを突き立てる。



美世の動きが一瞬止まった。



その隙にナイフを引き抜き、そして美世の右目に付きたてた。



美世の眼球がナイフにくっついて飛び出して来た。



血しぶきで周囲が真っ赤に染まる。



それでもあたしは止めなかった。



叫び声をあげてナイフを美世へ突き立てる。



気が付けば美世は倒れ、あたしはその上に馬乗りになっていた。



「あぁぁぁ……!」



涙と鼻水で美世の顔が見えなくなる。



美世は全くの無抵抗だった。



それでもあたしの手は止まらない。



やらなきゃ。



やらなきゃ。



やらなきゃ、あたしがやられる!



「死んで! 死んで! 死んで!」



そう言いながら美世の心臓を突き刺した。



ドクドクと大きく脈打っていた血管が一瞬にして止まるのを見た。



それと同時に、あたしの手も動きを止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る