第35話

「あなたたちは生きた人間を拷問できるのに、死んだ人間を拷問できないんですか?」



その質問にはなにも言い返せなかった。



助けてほしいという悲鳴を、繰り返し無視してきた。



その悲鳴が面白い物だと思い、笑って来た。



あたしは奥歯を噛みしめて俯いていた。



相手の人権を無視したのはあたしだ。



相手の苦しみを笑ったのはあたしだ。



「助けてください……」



モニターへ向けて弱弱しくそう言った。



千恵美だって同じ言葉を言っていた。



こんなに小さな声じゃなく、もっと大きな声で言っていた。



それでも、あたしたちはそれに耳を貸す事はなかったんだ。



すると、隣に座っていた美世が静かに立ち上がり、音の死体へと近づいて行った。



「美世、なにするの……?」



美世は答えず音のスカートを捲り上げた。



「美世!?」



止めに入ろうとしたけれど、美世に突き飛ばされてしまった。



美世の目は光を失い、ただ言われた事をやっているだけだった。



美世は音の下着を脱がせると、両足を開かせてモニターへ向けた。



覆面男の笑い声が聞こえて来る。



それと同時に、画面上に文字が流れ始めた。



《もっとやれ!》



《死体にストリップさせろ》



《もう1人は何で突っ立ってんの? お前もやれよ》



次々と流れてくる文章に唖然とした。



この光景も世界中に配信されているのだ。



この行為をやめろという書き込みは1つもない。



あたしはまた奥歯を噛みしめた。



あたしたちは見世物だ。



客寄せパンダだ。



でも、従わないとどうなるか……。



あたしは音の死体を見おろした。



美世は音の下半身に指を入れて遊んでいる。



「美世、やめなよ」



美世は一瞬こちらを見たが、すぐに音へと視線を戻した。



死んでいる音は何も言わない。



嫌だとも、やめてとも、言わない。



「やめろよ!!」



あたしは怒鳴り声をあげて美世の体を突き飛ばした。



肩で呼吸をして美世を睨み付ける。



美世はぼんやりとした表情であたしを見つめた。



しかし、次の瞬間……カッと口を大きく開いたのだ。



口の中には長い牙が見える。



あたしはたじろき、後ずさりをした。



「そろそろ薬の効果が出て来たようですね」



覆面男の声がして、あたしはモニターを見た。



「言い忘れていましたが、昨日の敗者には特別な薬を投与させてもらいました」



「薬!?」



「そう……自我を失い。化け物になる薬です」



覆面の下の顔が奇妙に歪み、笑ったような気がした。



「ガアアアアアア!」



叫び声が聞こえて視線を戻すと牙をむき出しにした美世がこちらへ迫ってくるところだった。



「美世、やめて!」



咄嗟に部屋の隅へと逃げた。

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