第28話

「で、これをあたしたちに見せてどうするつもり?」



あたしたちの後ろに立っている覆面男へ向けて、あたしはそう言った。



男はなにも返事をしない。



モニター越しにだと多弁なくせに、直接には相手にしてくれないようだ。



あたしは視線をモニターへ戻した。



いつの間にかモニター内には覆面男の姿が写っている。



「今の動画は世界中に配信されました」



機械的な声がそう告げた。



「まじで……」



音が小さな声でそう呟いた。



モニターの中には美世の姿が映し出される。



ウィッグを付けているから、今の美世の世数が写っているのだとすぐにわかった。


「こいつは色々な男と付き合い、卑怯な手口を使って相手を騙していました。このまま許す事はできません」



美世の顔がアップになる。



その表情は恐怖で歪んでいた。



「そこで今この動画を見た皆様に投票していただきたいと思います」



「投票……?」



あたしはモニターへ向けてそう聞いた。



しかし、相手からの返事はない。



この動画も世界配信されているのかもしれない。



「この娘にふさわしい罰を選び、番号を入力してください」



覆面男がそう言うと、美世の顔の上に1から3番までの数字が表れた。



それぞれに制裁方法が書かれている。



1番、硫酸で顔消滅。



2番、チェンソーで顔消滅。



3番、ハンマーで顔消滅。



「これ、本当に実行されるの?」



あたしは後ろに立っている覆面男へ向けてそう聞いた。



しかし、やはり返事はない。



「さすがに本当にはやらないでしょ。死んじゃうじゃん」



音が冷静な声でそう言った。



けれど、あたしはモニター越しの美世の様子が気になっていた。



恐怖に表情を歪ませているけれど、何も言わないのだ。



さっきから必死で口を動かしているけれど、ちっとも開かない。



「ねぇ、美世の様子変だよね」



「確かに、それは思ってたけど……」



美世は低い唸り声を上げている。



その時、画面の中に覆面男が入り込んできて美世のウィッグを外した。



途端に美世が暴れ出す。



それでも口だけはしっかりと閉じられたままだ。



「あははは。面白いですねぇ」



モニターの中の覆面男が楽し気な笑い声を上げる。



美世が必死に何か言おうとしている。



その口の端から細い血の筋がおちて行った。



「え……?」



唖然としていると、口の端から徐々に徐々に血が流れ出していく。



「ダメですよ。無理やり口をあけたらボンドが剝がれる」



ボンド!?



あたしはギョッとして目を見開いた。



美世はボンドで無理やり口をふさがれているのだ。



モニターから思わず視線を外した。



「さて、そうこうしている間に投票は締め切りです! 最多数投票があったのはどれなのか!?」



途端にクイズ番組の司会者のような口調になる覆面男。



画面上には美世の苦し気な表情と、投票結果が表示された。



1位、チェンソー



2位、硫酸



3位、ハンマー



「チェンソーだ……」



音がそう呟いた。



「美世はチェンソーで顔を奪われるってこと?」



「そんなことしたら死んじゃう!」



音がそう叫んだ時、画面上にチェンソーが現れた。

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