ピエロ

フルーガル

ピエロ

 私は、幼いころから道化師ピエロだった。


 初めに気づいたのは小学1年生の時、最初は周りの大人たちの言うことを聞いていれば、大人たちが笑ってくれることがただ純粋にうれしかった。しかし、どういう行動をとれば大人たちが喜ぶのかがだんだんわかってくると、その期待に応えようと自分自身を押し殺し、笑顔を張り付けて行動していた。そうしてできたのは、までの私。


 これはそんな私がある一人の男に変えられたお話......




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 私立星羅学園には才色兼備という四字熟語を擬人化したような生徒がいる。その名は、遠藤凛香えんどうりんか。彼女は毎学期の定期テストで学年1位を取り続けている。



 * * * * * * * * * *


 ー学校ー


 今回の定期テストも1位か......

 大丈夫、保てている。失望されないで済む。


「凛香~~! 今回もまた1位だったのっ!? すごいな~! 私なんて平均にも届かなかったよ......」


 隣のクラスで幼馴染の小鳥遊寧々たかなしねねが元気いっぱいかと思ったら、悲しそうな表情を浮かべて話しかけてくる。この子とは小学2年生の時に同じクラスで席が隣になった時からの約10年もの付き合いだ。昔っから感情の起伏が激しく危なっかしい様子である意味目が離せない子だ。

 この子のことは一番信用しているし、だと思っているが、私が仮面をかぶっていることを話せていない。


「聞こえてる~? 今度、勉強教えてねっ!」


「ええ。ごめんなさい。もちろんきっちり教えるわ」


「ありがとう! やっぱり凛香は親友だよ!」


「どけっ!」


「わわっ! ごめんごめん」


 寧々が驚いてどいた横を、私を少し睨みつけながらいらだった様子で通って行ったのは今回の定期テストで2柊優斗ひいらぎゆうまとだ。彼はこの学園に入ってきてからただの一度も定期テストで1位を取ったことがなく、いつも学年2位だ。

 まぁ、私がいるからなんだけども......


「凛香~にらまれてたけど大丈夫?」


「ええ。大丈夫よ」



 * * * * * * * * * *


 ー凛香の家ー


 カチャ カチャ

 静かな食卓に食器の音が響く。


「凛香、今日は定期テストを返却されたでしょ? 結果は?」


「いつも通り学年1位ですよ」


「そう。よくやったわね。これからも励みなさい」


 これが我が家のいつもの食事風景だ。お父さんが海外に単身赴任に行ってからはこの状況にさらに拍車がかかった。私がまだまだ幼かった時のいつも笑顔が溢れていて楽しかった食事がこんなものになってしまうなんて、あの頃には夢にも思わなかったんだけどな。


 食事が終わり、自室に戻ると今日が定期テストの返却の日で緊張していたおかげか途端に眠気が襲ってくる。

 目覚まし時計をセットして、布団に入る。


 目を瞑りながら明日の世界へ思いを馳せる。


 明日も頑張ら...な......きゃ.........



 * * * * * * * * * *


 ー学校ー


「おっはよ~! 凛香!」


「おはよう」


 後ろから寧々が飛びつきながら挨拶してくる。


「今日もかわいいね~」


 体を密着させて、私の頬を触りながらそんなことを言ってくる。

 そこでふと前を向くと柊優斗が歩いてきた。


「今日の放課後、屋上に来い。言いたいことがある」


「あ。はい」


 私はいきなりすぎて驚いたため、咄嗟に返事をしてしまった。

 あまり事を荒立てたくなかったので、隣でニヤニヤしながら私を見てくる寧々には微笑んでおいた。



 放課後、屋上へ向かうとすでに柊優斗は待っていた。


「それで話ってなに?」


「なんでお前は自分を隠しているんだ?」











 は? 











「お前はいつもそうだ。定期テストで1位を取った時も体育祭でクラスが優勝して最優秀選手に選ばれた時も、賞を受賞したときも、いつもだ。なんでそこまでして仮面を被る?」


「あなたには関係ないでしょ。放っておいて」


 そう言って屋上から出ていくと、途中で同じクラスの女子生徒たちに止められる。



「なんですか」


「何を話していたの?」


「あなたに話すようなことは何もありませんよ」


 と、足早に帰路に就く。


「あんた! ちょっと見た目が良くて、勉強できるからって調子乗ってんじゃないわよ!」


「お褒めのお言葉ありがとうございます」


 まるで全く興味がないような顔をしながら帰った。



 * * * * * * * * * *



 次の日からいじめが始まった。

 初めは筆箱がいつもおいている場所ではなく、別の場所に移動する程度のものだったがだんだんと過激なものに変わっていった。

 そしてついにいじめの主犯格と思われる女子生徒から放課後に屋上に来いと呼び出された。


 屋上の扉を開けると5名もの女子生徒が集まっていた。


「用件はなに?」


「ふ~ん。まだ懲りてないんだ」


「懲りるもなにも、私自身がなにか悪いことをした訳ではないのだからどうしようもないわね」


「まだそんな口が利けるんなら、体に教えてあげるよっ!」


 女子生徒たちが手を振り上げながら近づいてきた。

 頬に当た 「やめろ!」 え?

 私と女子生徒たちが一斉に声の聞こえた方を振り向くと柊優斗が立っていた。


「お前ら何してんだ!?」


 顔を顰めながら近づいてくる。


「二度とこいつに近づくんじゃねぇぞ!」


 私の肩を寄せながら女子生徒たちに声を張り上げる。すると、女子生徒たちは我先にと屋上から出ていった。



 はたかれなくて良かったと思いつつ、私の肩をつかんだままの柊優斗の顔を覗き見る。こちらに気づいた彼は私を正面に持ってきた。


「なんでお前はこんな時でも仮面をしてんだよ。お前の本当の顔を見せてくれよ。自分を犠牲にして周りを笑わせようとするなんてまるで道化師ピエロじゃねぇか」


「え。え。なにを言ってるの?」


「『なに言ってるの?』じゃねぇよ......ってお前泣いてんのか!?」


「え。ご、ごめんなさい」


 彼は私から少し離れ、頭を手で掻いた。

「いや、俺の方こそ言い過ぎた。まぁ、ともかく前までのお前より今の遠藤のほうが俺は好きだな」


「ふふっ。ありがと。私も少し吹っ切れたわ。」


「それならよかった。じゃあ、


「ええ。


 空を見上げると夕日と共にたくさんのが飛んでいて、ひどく幻想的だった。



 * * * * * * * * * *


 ー凛香の家ー

 

 いつも通りの食事が終わり、一度部屋に戻り気合を入れる。


「よし!」


 リビングで食後のコーヒーを嗜んでいるお母さんの目の前まで行く。


「お母さん、少し話があるんだけどいい?」


「わかったわ。あなたの分のコーヒーも入れるから少し待ってなさい」


 こぽこぽとコーヒーを注ぐ音が沈黙が広がるリビングに響き渡る。


「あのねっ!お母さ 「コーヒーを飲んで落ち着いて話しなさい」 うん」



「幼い頃はさ、私がテストでいい点数取ったり、運動で活躍するとお母さんたちが喜んでくれるのが嬉しくてずっと頑張っていたんだ。ついさっきまでみんなは私に完璧を求めているのかなって思っていたんだ。だから、みんなのために完璧であり続けようとしたんだよ。でも、ある一人の男の子が言ってくれたんだ完璧であろうとする私より今の私のほうが好きって。お母さん、私変わっていいかな?」


 一度口に出すと止まらなくなってしまってたくさん話してしまった。

 お母さんは泣いている?


「ごめん、ごめんなさい。もっとあなたと話すべきだった。あなたがそんなつらい思いをずっとしていたなんて気づかなかった。いいわ、変わりなさい。親っていうのは子供がどんな風に成長していくのか楽しみにしているのよ。そして、どんな結果に終わろうとも待っているから好きなだけ変わりなさい。今まで、あなたの苦しみに気づかなかった私が言うのも変だけど」


「全然変じゃないよ! お母さんはいつも私が帰ってくる時にあったかくておいしいごはんも用意してくれるし、いつも私をほめてくれた! だから、そんなこと言わないでよ。私は感謝しているんだよ。ありがとうお母さん」


 結局、私とお母さんは朝までずっと話していた。今まで話し合えなかった分を補うかのように。



 * * * * * * * * * *


 ー学校ー


「おっはよ~! 凛香!」


「寧々、おはよう」


「あれ~? なんか雰囲気変わった?」


「ふふっ。寧々には分かるのね」


だもんね!」


「ええ。そうね。ね。寧々、これからもよろしくね」


 寧々が驚いた顔をしてこちらを見てきた。しばらくすると、とびっきりの笑顔になって抱き着いてきた。


「よろしく!」


 思わずよろけてしまい、後ろの人に当たってしまった。


「ごめんなさい」


 謝罪をしつつ振り返ると、柊優斗がそこにいた。


「おう。おはよう」


「え、ええ。おはようございます」


「じゃあ。先、行くわ」


 昨日のことを思い出して、顔が熱を帯びていくのを感じる。隣で寧々がニヤニヤしているのが目に入ったのでとしてしっかりお・は・な・しをしておいた。





 * * * * * * * * * *


 ー10年後ー


「ねぇ、そういえばまだ赤ちゃんの名前まだ決めてなかったよね」


「えっ。今?」


「男の子でも女の子でもっていうのはどう? 昔の私みたいに変な仮面に縛り付けられずに、それこそ道化師ピエロみたいにならずに大きく羽ばたいてほしいっていう願いを込めて」


「昔っから君には頭の出来じゃ敵わないな」


「ふふっ。じゃあ決定ってことで」


「それでは新郎新婦の入場です! 盛大な拍手でお出迎えください!」




 寧々の声が聞こえてくる。

 もう時間か......











「それじゃあ、行きましょう。優斗」


「ああ、いこうか。凛香」













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