シャーロッツビル戦役

欧州列強が南部の独立を支持してくれることなど、まったく期待してはいなかった。

しかしそんなことはどうでもいい。

われわれには主張すべき大義があり、守るべき権利があった。

そのためには例え死すとも、最善を尽くす義務があったのだ。

-ロバート・エドワード・リー-


1940年12月11日、ワシントンD.C.上空


その全翼機の群れはワシントンの市民からもよく見えた。

それは空を飛ぶエイの群れの様に思え、雲の海を泳ぐエイの群れは飛行機雲を引いてとてもとても神々しくもあった。

戦争などと無関係で、美しく、重量削減から迷彩をしてない爆撃機達はジュラルミンの銀色の胴体を眩く輝かせていた。


《編隊指揮官機より全機。

 まもなく敵性地域インディアンカントリー、各機は陣形を詰めろ。》

《リードはコースを維持、お前を中心に陣形を組む》

《イェッサー。》


全翼の翼にまだらの赤と青の塗装をした陣形構築の先導機が、僚機を合流させる。

護衛機が合流するが、その護衛機は爆撃機のパイロットも驚く機体だった。

それはプッシャ式の飛行機、即ちプロペラが後ろに付いている機体だったのだ。

XP-54とXP-55を基にする二種類の機体、XP-54の系譜である先尾翼双胴式戦闘機<フライマンタ>と、小型のエンテ翼戦闘機でXP-55の系譜の<フライダーツ>と言う機体だった。


「機長。機長。すんごいですね!ありゃ新型でしょう!」


興奮気味の上部機銃手が、友軍機を見て声を上げた。

機長は呆れた様子で「んなモンじゃなくて警戒しろバカ」と叱る。

だがこの若い機銃手の興奮する気持ちは分からない訳は無かった、彼は10年前までフーヴァービルと呼ばれるスラム街にいたのだ。

この機銃手もどうせ似た様なクチだろう。

今や俺は機長様で、コイツは爆撃機機銃手様だ、そして仲間はこれだけいる。


《警戒!3時下方に敵機だ!》

《編隊指揮官機より全護衛機。全兵装使用自由。レッツダンス!》


イーグル・デイと呼ばれる合衆国と連合国の大空戦は、高度6500の空で開始された。

護衛機全機が増槽を投棄して一瞬だけ浮き上がり、その後直ちに反転降下して迎撃を開始する。

上がって来ていたのは連合国軍のハリケーン戦闘機と虎の子のスピットファイア戦闘機、イギリス製だがエンジンは更にカスタムされている。


《戦闘機が交戦を開始してる・・・》


下部機銃手の呟きが聞こえると同時に、上部の爆撃機が叫ぶ。


《警戒!6時上空!雲の影から更に来たァ!!》

「畜生被られたァッ!!」


あいつら単発機をわざと先に見せて囮にしやがった!

双発のスターフィッシュ戦闘機と旧式だがエンジンは良いブレニムを対爆撃機に投入した連合国空軍は、もはやヤケクソに近い総力戦を仕掛けていた。

スターフィッシュの機体下部に装着された二門のイスパノ20mmの弾雨が、瞬く間にB-35が一機炎上、炎を引いて落ちていく。


《メイデイメイデイメイデイ!操縦不能!墜落する!》

《くそぉッ!護衛機何やってる!》

「喋って無いで撃てよバカヤロウ!」


搭載の12.7mm防護機銃の赤い曳光弾が唸りを上げ、降下してくる敵機を撃墜しようとする。

しかしながら一撃離脱を繰り返して、射撃位置に占位しない機動は防護機銃の苦手する戦法だ。

それでも数量は当たる確率を大幅に上げる。

一機のブレニムが被弾して業火を上げて落ちていく。

更に一部の護衛機がすぐに戻って来たため、爆撃機周囲で大乱戦が開始され始める。


《編隊指揮官機より全機!まもなく投弾!》

《ベイを解放!》


リッチモンド上空に迫った爆撃機達は、しっかりと狙いを定める。

ブレニムが横合いから銃撃を行い、機長の横に居た副操縦士の首から先が無くなる。


「くそっ!コパイがヤられた!」

《更に敵機が来る!後ろ!》

「全銃座各個射撃!寄せ付けるなァッ!!」


後方より突撃するスターフィッシュはまず横の僚機を撃ち抜いて第三エンジンを炎上させ、続けて自分たちに狙いを定める。

銃手達の懸命な射撃に対して、横滑りをしながらイスパノ20mm機関砲をぶちかまそうとするスターフィッシュが、突如炎上する。

後方から慌てて迎撃しに来たフライダーツがスターフィッシュを撃墜したのだ。

炎上を確認して別の敵機を探し求めるフライダーツだが、スターフィッシュは推力を段々失いつつもB-35に追い縋る。


《おいおいおいやばいぞ来るぞ!!》

「マジかよォッ!!」


機長が最期に見た光景は炎上するスターフィッシュがちょうどコクピットに機首をぶつけようとする瞬間だった。

制御を失い慣性機動のまま突入したスターフィッシュは盛大な爆発を生んで、その爆発が爆弾倉のたんまりと詰まった爆弾に引火する。

そして、その誘爆の炎と衝撃と破片が周辺の僚機を襲う。


《なんだ!何が起こった!》

《ちくしょう!友軍を巻き込んだァ!》

《まだ来るゥ!!》


両軍の血みどろだが、何処か儚く美しい空中戦は両方へ甚大な損害を生むことになった。

敵の機動戦力を潰そうとする連合国、能率の点から昼間都市爆撃上等の合衆国。

互い互いにクロスカウンターを殴り合う戦いは、泥沼であった。


1940年12月11日、バージニア阻止線


連合国陸軍は総計12個師団と9個旅団で構成される、この下には州防衛軍も存在しており各州概ね一個師団を有している。

その陸戦兵力は予備戦力とメキシコ警戒、それに沿岸地域の州防衛軍沿岸監視隊を除く8個師団5個旅団が合衆国との警戒線にいる。

対する合衆国陸軍は13個師団と4個旅団、本来なら攻勢予備戦力として6個師団分の自動車化歩兵と機械化師団がいたがコレは欧州送りになった。

つまり、両軍はあまり余裕が無い。

合衆国陸軍は戦略予備戦力として、練兵中の10個師団を早期投入する事も可能であったがコレは投入したくないというのが政府と軍部の意見だった。

マッカーサーやマーシャルは「カナダとメキシコ警戒で動かせない」と思い、政府は「イギリス本格参戦による東岸攻撃、又は日本の組織的西岸侵攻」という恐怖があった。

実の所、クレメント・アトリー政権の英国には外征する余裕が乏しかったし、日本に本格的に西岸へ渡洋侵攻する余裕も無かったのだが。


それでも合衆国陸軍は優位性が存在していた、兵站線や兵站を支える輸送部隊の車両・航空機・人員数と改善された砲火力や近接支援火力があった。

輸送部隊は完全に自動車化され、通信設備が支給され、医療部隊の救急車もほぼ充足しきっている。

歩兵は後方要員たちですら半自動小銃M1ガーランドを支給され、突撃隊員にはM1918BARブローニング自動小銃とトンプソン短機関銃の設計を合わせたコンバットライフル突撃小銃を支給されていた。

25発の弾倉に共通規格部品と木製多用のコンバットライフルは、生産の簡易さに比べて高性能であり、7.62mm弾と.45ACPの近接戦仕様の二種に容易に組み替え出来た。

こうした武器の優位性は第一次南北戦争でも北軍に存在したので、兵士たちの要望と補給的負担から連合国も鹵獲したコレを基に新型銃を作り始める事になった。

ただ、南北両軍で手に入れた兵士の独自改造が相次ぎ、素性もよく分からない両軍の鹵獲火器が戦後に多数博物館へ収まる事になり、後世の文芸員とマニア達に頭を抱えさせる事になった。


対して、優位性がお互いに甲乙つけがたいのは戦車に関してだった。

合衆国陸軍のM4シャーマンは試験的に採用したドイツ製のM3中戦車--中身は3号戦車--で採用するべき点を洗う為の試作に近く、生産設備もドイツ向け工場から数台ずつ集めているだけであった。

そして作られたM4は荒削りとも言える戦車で、A1型は50mm長砲身という中途半端な火力か、76mm短砲身のCSシャーマンと呼ばれる歩兵支援火力だった。

当然、ソ連との戦訓が伝わると改良が始まったが開戦暫くは火力で圧倒されるケースがしばしばだった。


対する連合国戦車、すなわちM3リーはイギリス軍巡航戦車と歩兵戦車のハーフの系譜と言うべき、将来的にMBTと呼ばれうる可能性もあった車両であった。

エンジンと主砲はライセンス国内生産のイギリス製だがそれ以外には純国産で、その策源地は合衆国に早々襲われないケープカナベラルなどに存在しているが、輸送するのに苦労を要していた。

火力では17ポンド砲は高火力ではあったが携行できる弾数などに限りが存在したし、装填に時間を要する。


この2度目の南北戦争はお互いにとって、もう少しだけ時間を求めたくなる戦いとして始まったのである。


連合国戦史研究会資料


12月11日4時2分、合衆国はバージニア作戦区域の幅122キロ全域の国境前哨陣地に奇襲。

連合国陸軍第三・第四・第六師団は全戦線で交戦に突入。

緻密極まる移動弾幕射撃と火線延伸、訓令戦術によって連合国師団を猛撃し、4時19分第六師団第一線が、4時38分には前線師団全ての主抵抗線が2キロ後退する。


12月11日4時54分、連合国陸軍第二師団--装備優良師団--が戦線予備として到着。

同時刻、合衆国大規模航空攻撃が開始され、国境都市部とリッチモンドに爆撃が開始。

イーグル・デイの始まり。


12月11日5時22分、戦車歩兵砲兵の親密なる協同の下合衆国陸軍第一歩兵師団--完全機械化--が連合国陸軍第六師団戦線を突破、一路躍進を開始する。

合衆国陸軍第一歩兵師団は第六師団を包囲せんと機動、一時第六師団の第116旅団を中心とする6800名をストーントンから東7キロのフィッシャーズビルにて包囲下に置く。

この時点でグラハム少佐指揮下の師団先遣大隊は、国境から40キロ地点への大突破を終え補給を開始。


12月11日5時59分、"暁の空戦"。

イーグル・デイ最初の空戦が開始。


12月11日6時25分、連合国陸軍バージニア軍参謀長ウォルトン・ウォーカーは、戦史に稀に見る師団の戦術ユニット単位の小分けによって第六師団包囲下兵力を効率的に展開させ、ハリネズミ陣地を構築する。


12月11日7時8分、リッチモンドへの強襲攻撃を目前に合衆国が師団規模の強攻を開始。

戦意・装備・弾薬の優勢な合衆国軍の"平押し"により遅滞戦が失敗した第四師団は白刃を用いての戦闘に突入。

予備の一個旅団を投入して第一次攻撃を撃退するも、30分後に第二次攻撃を受ける。


12月11日7時49分、バージニア軍は予備戦力のアイゼンハウワー師団長の第二師団全力を用いての第六師団戦力救出を下命しようとするも、第四師団の戦列が維持不可能となる。

首都前面の第四師団後退掩護のために第二師団から二個戦闘団を投入。


12月11日8時6分、アイゼンハウワー師団長は麾下のスタンレイ戦闘団に包囲下の第六師団一部兵力救出を命令する。

師団本部からの増強として、<ストーンウォール>重戦車小隊と76mm野戦砲中隊六門を受ける。


12月11日8時15分、スタンレイ戦闘団は包囲下の第六師団戦力を救出する解囲作戦に向け移動を開始。


12月11日8時45分、シャーロッツビルとストーントン近隣の州防衛軍第203歩兵大隊と第209歩兵大隊一部が包囲軍と交戦するも撃退される。


12月11日9時4分、スタンレイ戦闘団は作戦区域に現着。

作戦活動を開始する。


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