第4話 〔バケモノ〕ガ現レマシタ

「へっへっへ。

 酒のさかなに焼いたスルメ。

 寝る前の酒はやめられんのぅ〜」



 20:00過ぎ

 井中いなか家は寝支度ねじたくをする時間。

 きらりの祖父は、居間いまで1人でゆっくりと寝る前の一杯いっぱいを楽しんでいた。

 その時、




「ドッカーン!!!!」




 家の壁がくずれた。

くずれた”というより“き飛んだ”に近かった。くずれた壁の向こうに、うっすらと〔ゾウ〕の姿が見えた。



「何じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?

 ゾウが! ゾウが、おる!!」

『……ワレハ【ベヒモス】』

「ゾウがしゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」



 きらりの祖父はこしかしてしまった。

 【ベヒモス】は『パオ~ン』と雄叫おたけびをあげると、きらりの祖父が焼いたスルメを長い鼻でつかみ取り、口の中に入れた。

 スルメをめ、満足そうな【ベヒモス】。

 だが、すぐに食べ終わってしまい、力なくかたを落とした。



『……リナイ』



 そういって、台所の方へと向かった。

 ドスンドスンと歩いていく【ベヒモス】。



「ひぃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 隙間すきまだらけの家じゃが、ワシのじいさんのだいから続く思い出ぶかい家が!!」



 きらりの祖父は腰を抜かしたまま、バタバタと奥の部屋に逃げようとした。

 そこに、家族全員が奥にあるそれぞれの部屋から、かけつけた。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

「うわぁぁぁぁぁん! おじいちゃん!!」

きらり! 危ないから前に出るな!!」



 かけつけたものの、動けないでいる皆をおいて、ボーカロイドの〔いちごちゃん〕だけが【ベヒモス】の近くへと向かった。



「ピピッ!」



 冷蔵庫の中の食材をむさぼる【ベヒモス】に、防犯のための電子音をならした。



「ダメじゃ! いちごちゃん!!

 そいつは人間じゃないから、電子音など聞いても罪悪感ざいあくかんなど感じんわい!!」



 きらりの祖父は必死にさけぶが、〔いちごちゃん〕はなおも「ピピッ!」「ピピッ!」と電子音でんしおんらし続けた。



『ウルサイ人間。食事ノ邪魔スルナ』



 【ベヒモス】は左手で〔いちごちゃん〕を軽く払った。

 すると、〔いちごちゃん〕の体は木造の家の壁をぶちいて、20メートルほど遠くにばされた。



「うわぁぁぁぁぁん! いちごちゃん!!

 目から、目からビームを出してよ!!

 負けないでぇ!!!!」

きらり

 無茶むちゃを言うんじゃない!!

 “目からビームは出せない”と、いちごちゃんは言ってただろ?!」

「だってぇぇぇぇぇ!

 このままじゃ、いちごちゃんも家も壊されちゃうよぉぉぉぉぉぉ!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



 泣きわめくきらりを、父のひろしがなだめようとしたが、きらりは泣き続けた。



 一方いっぽう

【ベヒモス】は、ほどなくして冷蔵庫の中身をすべて平らげてしまった。



『……リナイ』



 キョロキョロと家の中を見回みまわすが、食べ物を見つけられず、【ベヒモス】は自分がこわした壁のあなから外に出て地団駄じだんだんだ。




 ドスドスドスドス!!


『食ベ物!! 食べ物!!』


 ドスドスドスドス!!!!




【ベヒモス】が大地をらすたびに、井中いなかまわりだけといわず、あた一帯いったい見渡みわたかぎりの植物が成長し始めた。

 収穫しゅうかくが終わったナスやトマトやピーマンたちが異常いじょうなほどにツルをのばし、花をつけ、ふたたをみのらせた。

 もうすぐ収穫予定のいねは、実を落とし、落ちた実から芽が出て、葉をのばし、所狭ところせましと成長して、また実をつけた。

 そんな感じで見渡みわたかぎり、植物がひしめき合い、野菜のジャングルのようになった。



「なんという光景こうけいじゃ……」

「稲や野菜や果物が、よく成長するのは良いことだけど……」

「……これは、もう人の住む世界じゃないぞ」

「歩く道もないわね」

「うわぁぁぁぁぁん! こわいよう!!」



 井中家いなかけのバキバキに壊れた壁のあなから外を見て、家族全員が絶望した。



 さっきからずっと聞こえるきらりの泣き声。

 【ベヒモス】に吹き飛ばされ、地面にたおれた体制たいせいのまま、〔いちごちゃん〕は自分を作ってくれた博士が、むかし話していたことを思い出していた。



 ――お前は、人を笑顔にするために作られるんじゃ。お前はワシのほこりじゃ――



 遠くに聞こえる、きらりの泣き声。




「……エガオ」




 〔いちごちゃん〕は成長しすぎたトマトをかき分け、立ち上がった。


 〔いちごちゃん〕はトマトをかき分け、【ベヒモス】の方へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る