閑話 8 マルガレッタからの贈り物


 マルガレッタ様がおかしい。ナランに行ってから、どこかおかしいと使用人達の間で話題になっています。

一緒に行った先輩の方も、何があったか教えてくれません。秘密ならしいのです。


わたしにもいつもよりぎこちなく接してきます。やけに優しいというか。前なら、なんでも命令して、文句を言うのがふつうだったのに。


貴族のご令嬢ですから、いろいろ言われるのを特に気にしてはおりませんでした。この領を統治するバルワース様のお嬢様に尽くせるのです。喜ばしいことです。

なのに、どうしたんでしょうか。元気がないのでわたしは心配です。


わたし以外にも変化があるのです。みんなマルガレッタ様のことを心配していました。ナランで何があったのでしょう?


 夜。わたしは自室のベッドで、余韻に浸っていました。今日はわたしの誕生日。使用人のみんながお祝いをしてくれました。ささやかだけど、想いのこもったみんなのもてなし。


マルガレッタ様は相変わらず物憂げで、わたしの誕生日なんだって話せません。使用人のお祝いなんて、しないでしょうけど。


こんこんとノックがされて、わたしはドアを開けます。目の前の方を見て、驚きました。


「マルガレッタ様?」


「入るわよ」


背中に手を回したまま、わたしの部屋に入ってきます。こんな夜中に、なんでしょうか? もしかして今日の掃除が完璧じゃなかったとか……何か別の話か。


「あ、あの、マルガレッタ様」


「今日は貴女の誕生日よね?」


「え、あ、はい!」


誕生日を知ってくださった? そんな、嬉しい。

お祝いの言葉を、言いに来てくれたのかもしれません。


「これ、あげるわ」


さっと、わたしの目の前にきれいにラッピングされた包みを出す。


「え……これ……」


言葉にならずに口をぱくぱくしてしまいます。


「貴女へのプレゼントよ。大切に使いなさいよねっ」


マルガレッタ様はわたしに包みを押しつけて、部屋を出ていこうとします。


「あの、マルガレッタ様! ありがとうございます!」


「いいのよ。貴女はあたくしの妹……妹みたいな存在なんだから」


背中ごしに聞こえる言葉。マルガレッタ様がわたしのことを、そう思ってくれていたなんて! 嬉しくて涙が出ます。しゅんと鼻を啜ると、マルガレッタ様がこちらを向きました。


「貴女にはいつか話したいことがあるのよ。今すぐはまだ、ムリだけど……いつかあたくしと貴女についての話を聞いて欲しいわ。それまで、あたくしの元にいなさいよ。メイ」


「もちろんですっ!」


「そうそう。夏前になったら一緒にナランへ行くわよ。女子会に参加しましょう」


女子会? よくわからないけど、マルガレッタ様が望むならどこへだって行きます。

おやすみと言ってマルガレッタ様はドアを閉めました。


包みを開けてみます。淡いブルーのケープでした。言葉が添えられています。


「魔法のケープをプレゼントするわ。貴女、体が弱いから心配だったの。これで少しは楽になるはずよ。お誕生日おめでとう」


ケープは月の光でぼんやり輝いています。

わたしはケープを抱きしめました。柔らかい感触。マルガレッタ様の香水の香り。


ありがとうございます、と呟いて、わたしは涙を拭いました。

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