第5話 悪魔大戦の影




 雄一村に残っていたご老人の家に上がらせて貰った私達はカフリ様の提案によりカフリ様とミカリは奥様と夕飯の準備を私とカーマは泊まらせて貰う部屋の掃除をさせて貰う事になった。


「いやぁすまないね部屋を開けていたとはいえ、埃だらけになってしまっていて」


「いえ、私達の方こそ食事と部屋まで用意していただけるなんて、こんなもんじゃ足りないぐらいです!」


「そういえば、先程この村には王都の方以外来ないとおっしゃっていましたが、王都の方がここに来るのですか??」


 私達が手分けして準備をする前にカフリ様からご老人に聞いて欲しい事があると言われていた、それはこの村に2人以外の人がいない事、悪魔大戦の事、そして王都の人間が来ているのならその理由、カフリ様達は奥様に同じ話をすると言っていた、ミカリが言っていた通り少し心苦しい所もあるがカフリ様はこの人達を少し警戒している様だった。


「そうじゃよ3ヶ月に一度くらいかの、定期的にここへ来てくださるよ。」


「どうして王都の方々が??」


「ここらで手に入らない食べ物や薬なんかを持ってきてくださっておるのじゃよ、代わりにわし達はこの辺りでできた作物を渡して売ってもらっておるんじゃ」


「薬ですか?」


「そうじゃ村に人が居た時はわし達もイスト地方で一番大きい街へ野菜なんかを売りにいったりしとってな、そこで薬も手に入っておったんじゃが、人が居なくなってからは、わし達も歳をとってな、街まで行くには少し厳しくなっておったんじゃ、そんな時に王都の方々が行商をしてくれると言うのでな、それで定期的にきてもらってるんじゃ」


「おじいさん、どっか悪いとこでもあんの??」


「いやぁわしはこの通り元気なんじゃが、妻が病気を患ってしまってな...」


「そうなんですか...すみません変な事を聞いてしまって」


「気にすることは無い、わし達はもう歳じゃからな、ほっほっほっ」


「なんでここの人はそんなお2人を残してどこかへ行ってしまったんです??」


「わしらは置いてかれたんではなく行かなかったんじゃよ」


 おじいさんは、少し目線を下げて寂しそうに話し出した。


「もう20年程前になる...」


 私達の知っている"悪魔大戦"はちょうどその頃だ。


「王都の方々が来られての、街へ引っ越すよう協力を求められたのじゃ、1番大きな街は"アイモン"というのじゃがそこにはイスト地方中の農産物が集まる商業街でな、街をもっと大きくして流通を良くする為に住人の大移動があったんじゃよ、わしはここの村長をしていてな、村を残したくて残ると言うたんじゃが皆王都からの支援もあるっていうもんで行ってしもうたんじゃ」


 カーマと目が合った私は少し頷き、さらに話を続けた。


「その後に悪魔大戦が起きたんですか?」


 するとおじいさんは顔を上げて目を丸くし私達に聞いてきた。


「さっきもあのしっかりしたお嬢ちゃんが言っておったがその悪魔大戦とは一体なんなんじゃ?」


 私達はもう一度、知る限りの悪魔大戦の起きた時期とその内容をおじいさんに話した。


「そうかぁお主達はその生存者を救助しにこんな所まで来たと言うわけじゃな、しかしお主達の力にはなれなさそうじゃ、すまないのぉ」


「いえいえ、大丈夫です!おじいさん達が居るってことは他にもまだ残っている人がいるかも知れないって事がわかったのでそれだけで充分です」


「そうじゃなぁとりあえずアイモンに行ってみてはどうじゃな?そこなら何かお主達の役に立つ情報なんかもあるはずじゃ」


「そだね、そうしてみるよ、そこで救助が終わったらまたここに迎えにくるからさ、おじいさん待っててよ」


「いや、わしは一度ここに残ると覚悟を決めておる、その必要はない、もし立ち寄った時には冒険の話でもしてくれ、それだけで充分じゃ」


 おじいさんはまた、高らかに笑いながらカフリ様達の方へと戻っていった。


 そうして、あらかたの掃除を終えた頃、ちょうどミカリが食事ができたと呼びに来た所だった。


「...そっちはどうでしたか」


「やっぱ悪魔大戦については何も知らないっぽいね、あ、それと....」


 カーマはさっきおじいさんと話した事を、ミカリに伝えた。


「そうですか、では恐らく私達の見た一団は王都の行商かもしれませんね、それに...商業街アイモン...そこには行ってみる価値はありますね。」


「ミカリはどうだった?」


「商業街の事以外は同じでした、悪魔大戦なんて聞いたことないと」


「そうかぁ...ここは随分端っこみたいだしあまり影響は無かったのかなぁ」


 私がそう言うと、ミカリは周りを気にする様に小声で話してきた。


「ですが、あのお婆様は少し様子が変です、お薬を飲むところを見かけたのですが...明らかに飲む前と後で様子が違うのです...なにかこう...落ち着くというより快楽のような...」


 ミカリは知恵を振り絞るかの様に眉間に皺を寄せていた。


「ともかく、お爺様は王都から貰っていると言っていたでしょう?、祓魔銃ふつまじゅうの事といい何か良くない気がします」


 それを聞いてカーマは項垂れた。


「それじゃ早くカフリ様と合流した方が良さそうだね」


 それから、カフリ様の所へ戻った私達は久しぶりの暖かい食事を食べてから少し私達の話をしていた。


「私達祓魔師ふつましは、その王都の命を受けて今ここに来た訳です」


 カフリ様のその言葉にお婆様は目を見開く様な反応を見せた。


「そぉかい、アンタ達は祓魔師というんだね、若いのに偉いもんだねぇ、これから大変だろうて、今日は沢山食べてぐっすりと休んでおくれ」


 それまで口数の少なかったお婆様が、食い入る様に私達にそう言ってくれた。


「ありがとうございます、協力していただき感謝しています」


「ご馳走様でした、私達が片付けておきますね」


 一瞬私達を見てカフリ様はそう言って食器の片付けを始めた。


「あぁすまないねぇ、じゃあお婆さん、わし達も今日は寝ますかな」


 お婆様はコクリと頷き2人は別の部屋へと戻っていった。


 そうして片付けをしながら私達はさっきミカリと話した事をカフリ様にも話した。


「そう...じゃあしばらくはそのアイモンという街で現状を把握する必要があるわね、片付けが終わったら部屋で明日の準備をしておきましょう」


「わかりました」


 私達は片付けを終えて借りている部屋へと戻り簡単な移動の計画を話し早めに休む事にした。


「いやぁベッドサイコー!これならいつまでも寝れるよ」


「明日の朝には起きなさいよカーマ」


 他愛ない話をしつつ私達は眠りについた。




 まだ月も沈まぬ夜中だろうか、ふと目が覚めた私は寝付きが悪くなり気分を変えるため外の空気を吸いに部屋を出た。


「わぁぁ!」


 部屋を出てすぐお婆様と目が合い声を上げてしまった。


「す、すみません」


「いぃやぁこっちこそすまないねぇ、年寄りは色々と大変でねぇ」


 お婆様は、私とすれ違い用を足す為に裏口からでていった、正面の出入り口を出た私は白く輝く月を見上げながら大きく深呼吸した。


 バキィ‼︎


 寝る為に部屋に戻ろうとした時、私達のいた部屋の方から木の板がへし折れる様な大きな音が鳴り響いた。


「みんな!大丈夫⁉︎」


「...アズリル」


 部屋に戻った私を待っていたのは外へ飛ばされたカーマとミカリ、そして人2人分はありそうな巨大な蜘蛛の頭に青黒い男性の上半身がついた化け物がいた、その上半身の右手はカフリ様の首を掴み持ち上げていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アズリル TM @TM_syousetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ