告白して振られた俺を後輩がイジッてくる

一本橋

第1話

放課後。

校舎の前にある、緑の生い茂った木の下で、立川次郎たちかわ じろうは長年秘めていた気持ちを伝える。


「ずっと、前からお前の事が好きだった。俺と付き合ってくれ!」


相手は幼馴染みの新井友里あらい ゆり


「……そ、そういうのはまだ早いと思うの。だ、だから、私は今まで通りの関係でいたいなって……」


新井の艶々した綺麗な黒髪が、風になびく。


「そ、そうか」


立川は、悔しさで溢れだしそうな涙を堪え、気を遣って無理やり笑みを作った。

--フラれた。

けど、告白したことに後悔はしていない。

自分のしたいことをしたんだ。


立川がその場を去った後、途端に新井は頬を赤くしてもじもじする。

--つ、付き合うって事は結婚するって事だよね。

まだ、心の準備が整ってなくて、とっさに断っちゃったけど。


新井はピュアだったのだ。

キスをしたら子供が出来るという事を信じている程。


そんな事を知りもしない立川は、ベンチに座って深いため息を吐く。


「はぁ……」


俯き、地面を見つめる立川。

うるうると目に涙が溜まる。

--告白する以上、覚悟はしていたつもりだったが、実際にフラれると結構ツラいな。


そんな時、近付く足音と共に賑かな声が聞こえてくる。


「あれ~? どうしたんですか先輩。もしかして、ボッチなのが寂しいんですか?」


立川が顔を上げると、そこには茶髪を肩まで伸ばし、シャツ姿の愛想が良い美少女が立っていた。

彼女は長嶋千歳ながしま ちとせ

立川の後輩であり、何かとよく絡んでくるのだ。


立川はカッコ悪い姿を見せまいと、手で涙を拭う。


「お前には関係ないだろ」

「もう、私と先輩の仲じゃないですか。少しくらいなら、ほんのちょっぴりになら相談くらいしてあげてもいいですよ」


長嶋は当たり前のように、隣に座る。

何だかんだ、立川が心配なのだ。


「告白したんだ」


立川は少しでも気が楽になればいいなと、長嶋に打ち明ける事にした。


だが、当の長嶋は拍子抜けした顔をしている。


「え?」


徐々に長嶋の顔は曇っていく。

--告白? 誰に?


そして、長嶋はいても立ってもいられず、食い気味に聞く。


「そ、それで、どうだったんですか!」

「見れば分かるだろ。振られたんだよ」


立川の言葉に、心なしか安心する長嶋。

--そっか、振られたんだ。そうなんだ。


次第に、長嶋の口元が緩んでいく。


「それは良かっ……残念でしたね☆」


喜々とする長嶋に、立川の顔は少し晴れる。


「お前……。今、良かったって言い掛けただろ」

「そうですか~? 先輩の聞き間違いだと思いますよ」


笑って誤魔化す長嶋。


立川は長嶋と話した事で、少なからず気が楽になっていた。

--こいつなりに励ましてくれているんだろうな。


おかげで、二人の会話には明るい雰囲気が流れている。


「仕方ないですね。そんな可哀想な先輩を私が慰めてあげます。こんな美少女に構ってもらえるんだから、うぉぉぉとか嬉しさの余り雄叫びをあげちゃってもいいんですよ?」


と、自信満々な態度で長嶋がからかう。


普段なら、ここで立川がツッコミを入れる。

長嶋もそう思っていた。


けれど、今の立川は違った。

--雄叫び……か。


立川は渦巻く気持ちを、叫ぶことで発散させる事にした。


「……すぅ、うぉぉぉ!」


静まった校庭に響き渡る。

そして、一歩横にずれて離れる長嶋。


「えっ、何やってるんですか。まじ引くんですけど」

「お前がやれって言ったんだろ」


まったく、と呆れた様子で長嶋を見る立川。

気を取り直して、長嶋がベンチから立ち上がる。


「そうですけど……まあ、いいです。そうと決まれば、先輩、行きますよ!」


ノリノリに張り切っている長嶋に腕を引っ張られ、立川は連れられていく。


場面は変わり、珈琲の匂いが漂う喫茶店。

立川と長嶋は向かい合って席に座っていた。


長嶋がプリンをスプーンですくって、立川に向ける。


「あ~んしてあげましょうか?」

「やらんでいい」


立川は角砂糖とミルクを入れた珈琲を、一口飲む。

懲りずにからかい続ける長嶋。


「遠慮しなくてもいいんですよ? 今日は先輩を励ますためにここに来ているんですから。特別に、私に甘えちゃってくれても構いませんよ」


すると、立川は真面目な顔付きで長嶋を見る。


「言ったな。そんじゃ、お言葉に甘えて」

「え?」


長嶋は想定外の展開に困惑する。


「ほら、あ~んするんじゃなかったのか?」


そう口を開ける立川。

長嶋は迷いつつスプーンを近付ける。


「あ~」


けれど、直前で長嶋は恥ずかしさのあまり引っ込める。


「じょ、冗談ですよ。そんなのも分からなかったんですか? そんなんだから先輩はモテないんですよ」


と、言い訳をしていると、立川がテーブルに体を乗り出して、プリンをパクっと食べる。


長嶋はドキッと、一瞬ときめくが我に返ると、罵倒を浴びせる。


「あっ、なっ……。何やってるんですか先輩! 先輩の変態、立派なセクラハですよ」

「煽ったお前が悪い」


立川もまた、恥じらいつつ言葉を返した。


長嶋は空になったスプーンを見つめて、頬を赤くする。

--せ、先輩と……か、間接キス。


心なしか嬉しそうで、まんざらでもなさそうな長嶋だった。


そして、これがきっかけで立川と長嶋が付き合う事になり、新井がメンヘラ化したのは、また別の話。

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