横ピース

 午前零時外の明かりが消えた深夜、家にある小さなホワイトボードに現在の状況を書き出す。

 状況を整理しよう、今の俺の目的は隠れている武田総司をつり出すこと。そのため武田家に危機感をあたえなければいけない。俺たちは武田家の人間を病院送りにしたり奴らの目的を阻害した、いわゆる武田家潰しだ。少しでも片りんを出せば武田家七組幹部のこっち側の真壁の耳にも届くはずだ、そして釣り出てきたところを叩く、これが現時点での作戦だ。


 ホワイトボードには綾瀬に調べてもらった情報と真壁からの情報をまとめた名前とその特徴が書かれてある、6組5組の幹部の名前に線を引く。

 クラスに一人づつ配置されている武田家幹部、そいつらはクラスの番号がそのまま序列になっている、武田家の幹部は7組は仲間に6組5組は病院送りにした。

 今の討伐対象は【四天】の四人と真壁を除いた4から1の幹部連中、今は仲間を募り増やしながら幹部連中を間引いている、6組5組の幹部と戦った体感、実力上一対一の近接戦闘に持ち込めれば俺に勝てるやつはいないだろう。


【四天】か・・・


 特筆すべきは【四天】の連中だ。【四天】の一人馬場とは前回唯の件でやりあい勝ったがあれはあいつが刀が抜けなかったからだ。馬場も高坂も対面した時ただならない雰囲気があった、特に高坂、あいつからは何か嫌なものを感じた、こいつらを潰すのは骨が折れそうだ。


「問題はいかにほかの人間にばれずに一対一に持ち込むか、だな」


 これまでの敵は敵も近接戦闘型で戦えたが次の敵も近接戦闘型とは限らない。

 綾瀬の戦いのときのように一対一でなおかつ距離が近かったならある程度の遠距離攻撃は避けれる、しかしそれが3人にでも増えたら俺は何もできずに圧殺されるだろう、得意な近距離戦でも大人数の強者と戦ったらまず負けるだろう、つまり俺は常に囲まれないことを考えつつ戦闘を起こさなければいけない。


「ああーめんどくせー」


 昔の力があれば、なんてクソの役にも立たない、ないものねだりをつい考えてしまう。

 そんな自分に嫌気がさす、最近は困難にぶつかるたびにこれの繰り返しだ。


「んん、こんな時間に会議始めるなんて佐山さん頭おかしいですよ・・・」


 眠そうに目をかきながら綾瀬が俺に文句を垂れる。


「念には念だ、この前も真壁がきて俺とお前の関係がばれそうになったしな」


「いつもがさつで頼りないのに、よくわからないところだけきっちりしてますねぇ」


 この女マジで一回ぶん殴ってやろうかな。

 俺のイラつきに気づいた綾瀬は少し慌てながら話を逸らす。


「じょ、冗談ですよ、それで次はどうするんです?」


「生徒会に入って仲良く一緒に打倒武田家だな」


「そこまでして生徒会の協力がいるんですか?唯さんと真壁さんがいれば十分そうですが・・・」


「これはいかに武田に危機感をもたらし引き釣り出すかだ、生徒会ほどの戦力がまた敵になれば武田本人も出ざるを得ない、それに生徒会には何人も使えるやつがいるだろ?」


「そうですね、人気者の柿崎さんにめちゃつよの直江さんさらにはそれを従える学園最強と言われる生徒会長」


「おいおい、長尾ってそんな強いのかよ」


 井上の【七色】に匹敵するって発言は誇張しているんだと思っていたが本当なのか。


「らしいですね、能力は【瞬間移動】詳細は知りませんが自分や他人を瞬間移動できるようです」


 なるほど、あの時俺と直江の位置が変わったのはそれが理由だろう。


「でも生徒会はもう和解しちゃったんじゃないんですか?」


「表向きはな、話を聞くにあいつらの本心はそんなことしたくなかったはずだ、会長の頼みで妥協した、そんなところだろう、だから俺はそこをつく」


 ブンッ


 綾瀬の顔に向けパンチを突き寸でのところで止める。

 風が吹き、綾瀬の髪をなびかせる。

 さっきの悪口のやり返しのつもりで意地悪し返したつもりだったが綾瀬は全く動じていない。


「というと?」


 綾瀬は頭をかしげ俺を見る。


「何かしら動機を作ればあの和平は瓦解するはずだ。生徒会には6人もいるんだ、どうにかして戦わせてやる、なんか知らねえが関係性がいい感じにギクシャクしてるしな、人が複数いる以上少なからず痴情のもつれってのはあるもんだ、特に男女がいる場にはな」


 俺の大好きな謀略の時間だ、嵌めてやるよ。


「そういえばそれより俺は今気になることがある」


 綾瀬の顔を見つめ前々から考えていた疑問を聞く。


「なんですかすごい急に真剣な顔になりましたけど」


「お前、どこでそんな戦闘技術教わったんだ?」


 先ほどの殴り、勢いはかなりあったはずだ、普通の人間なら反射で目をつむる、だが綾瀬は一切目をつぶらないどころか瞼すら動かなかった、テレパシーや精度の高い念力に加え蹴りを中心とした体術、20歳で掴める技術じゃない、


「いいません」


「なんでだよ!」


「女の子には秘密の二つやひとつ持っていた方が魅力的とよく言うじゃないですか、それを聞くなんて佐山さん相変わらずデリカシーなさすぎです」


 綾瀬は自分の過去を語らない、なにか俺のように思い出したくない過去でもあるのだろうか。


「でも一つヒントを上げるとしたら私にも許せない人がいるということですね」


 綾瀬は目つきを変え、どこか遠い目をする。


「お前も誰かに復讐したいのか?どんなやつなんだ?」


 俺は綾瀬が初めて自分の過去を言い始めたことに驚き、固唾をのんでそれを聞く。


「デリカシーのかけらもない人で、ことあるごとに昔の強かった自分を出しては昔話を始める過去の栄光にすぐすがる人で~」


「それ俺じゃねーか!はぁ、もういいや」


 綾瀬の自分のことを語らない頑なな態度に聞くのを諦め大きくため息をつく。

 少し緊張して聞いた俺が馬鹿みたいだ。


「あと頼みがあるんだがお前ご自慢の交友関係の広さで生徒会の奴らの詳しい情報を聞いといてくれ」


 生徒会を荒らすには情報がまだ足りなさすぎる、それを綾瀬には補ってもらう。


「了解です」


 綾瀬はウインクしながら横ピースをして返事をする。


「うぉっっ・・・」


 可愛さとあざとさが混ざったそれを見た俺は少し顔をひきつらせなんとも言えない気持ちになる。


「なんですか、そんなに引いたような顔をして、最近の女の子の流行りのポーズらしいですよ、一応やって見たらどうです潜入者たるもの流行りも知って置かなきゃ行けないでしょう」


 綾瀬はピースした指をハサミのように開閉している。

 少しあざとくて引いたけど可愛い子がやると普通に可愛いな、今どきの女子高生ってこんなことするのか・・・!


「こんな感じ?」


 俺も綾瀬を真似ようと片目を閉じ横ピースをする。


「うぇっ・・・気持ち悪・・・」


 それを見た綾瀬は思い切り顔をひきつらせ嘔吐く。

 おい。

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