ほつれ

身体能力はこの中で一番高いであろう俺が全く見えなかった、この茶髪の男の動きが。

 この男何者だ?

 俺が愕然としていると直江が立ち上がり俺に向け走り来る。


「どけ会長!そいつは俺が!」


 このYシャツについているバッジといい、直江の言葉といい男が生徒会長のようだ。


「井上から電話で聞いたよ、3分耐えた時点で彼の勝ち、その約束なんだろ?」


 その生徒会長は俺たちに手を出させまいと直江の前に立ちはだかり、静止する。

 井上が俺たちが戦っている最中に生徒会長を呼んでくれたのか。


「井上ぇ・・・!」


 直江はすごい剣幕で井上を睨む。


「約束を了承したのは直江、君自身だろ」


 井上は誠実そうな顔で直江を見つめその視線の間から火花のようなものが散るのを感じる。


「直江、お前は強いけど独断専行が過ぎる、少し頭を冷やしてこいよ」


「会長・・・俺の獣の勘がこの男をいれるなって言ってんだよ、こいつは何か悪いもんを隠してる、俺の勘ははずれねえ!」


 直江のその必死さは真実味を感じさせる。

 なんだそのチート能力?!嘘を見抜く能力見たいのもあんのかよ。


「それ俺が直江を生徒会に誘う時もいってたよな、俺からは悪いオーラを感じるって、俺も悪いやつだったか?」


「それは・・・」


 直江は生徒会長の言葉に何も言い返せなくなり悔しそうに拳に力を入れる。

 ガバガバ能力じゃねーか!


「やめなよ、直、会長の言葉が信じられないの?」


 今まで俺たちの喧嘩を見てアタフタしていた柿崎も口を開く。


「柿崎・・・お前まで・・・」


 直江は相当ショックだったようで口を開き唖然としている。


「今日は頭を冷やしてこい直江、業務は俺らがやる」


 生徒会長が直江の行為を注意すると直江は舌打ちし、生徒会室を出ていく。


「悪かったな、あいつはあれでも悪い奴じゃないんだよ」


 生徒会長は笑顔で手を差し伸べ俺と唯に握手を求める。

 慎重は少し高め178cmほどだろうか、俺の考えるお堅い生徒会のイメージとは真逆の外見、Yシャツの袖をまくり、茶髪でピアスをしている。一言でいうならチャラそう。

 イケメンでそのやわらかい雰囲気は女受けしそうだ。


「あ、チャラいって思ったでしょ、これ全力で学校の法則の範囲でできる格好なんだ」


 生徒会長は嬉しそうに髪をかき上げピアスや服を見せてくる。


「会長はすごいんだよ、選挙では票を2位以下とは大きな差をつけて選ばれたんだ、そしてこの学園内外から未来を有望視される人間でもあるんだ、会長はいずれは【七色】の一人になれるかもしれないっていわれてるんだ」


 確かに頭の悪そうな見た目とは裏腹にしゃべり方には知性を感じる、イケメンで誰にでも優しく、賢くカリスマ性もある、まさに人の上に立つために神に作られたような人間。

 俺の苦手なタイプ、だいたいこういう奴ほど裏が激しいもんだ。


「井上から話は聞いてる、立花と真田だな、俺は長尾、生徒会長だ、今は人手不足なんでね、やる気があるならだれでもOKだ、それでなんで生徒会に?」


 俺と唯は差し伸べられた手を掴み握手する。


「皆さんは武田家に対抗している唯一の勢力と聞きました、僕たちもあの勢力が蔓延っているのが許せません、是非僕も力になりたくて」


「その話か・・・」


 俺の言葉を聞いた瞬間長尾からの笑顔は消え、生徒会室の空気が変わる。

 なんだ?地雷踏んだ?


「結論から言おう、それは無理だ」


「え?」


「まずは座ってゆっくり話そうか、もう生徒会が武田家に反抗していたのは過去の話だ、今は表向きそうなっているだけだ」


 長尾は客用のお茶を注ぎながら話を始める。

 俺と唯は席に座り、それを待つ。


「どうゆうことですか?」


「これは生徒会と武田家でも数人しか知らないことだが、俺が武田家打倒を公約に生徒会長になった2年後期、そこから生徒会員が襲われることやいじめが多発した。俺たちは先生も抱き込んでいた武田家になすすべなかった。だから話し合いである程度のラインでの妥協で和解したのさ」


「和解って、そんなのただあきらめただけじゃん」


 唯は一切の言葉を濁さずまっすぐな瞳を長尾に向ける。


「・・・その通り事実上の降伏だ、でも仕方なかった」


 長尾は悲しそうにお茶を注いだマグカップを置く。


「【七色】になれるほどの実力がありながらなんで?それほどの力があるなら単独でも力で武田家を潰せるんじゃないんですか?」


「武田家は強大だ、【四天】の奴らは簡単に倒せない、もし倒せたとしても俺は力で抑圧するのは嫌いなんだ。それにこれ以上周りの人間に危害が及ぶのは我慢ならなかった」


 なるほど、力があるにもかかわらず、諦めたわけだ、そこで諦めたせいでいろんな奴が苦しんでいるようだがな、ぬるい、ぬるすぎるぜ生徒会。

 俺の知れない当人のその時の気持ちや苦痛はあっただろう、だがその考えを無視する意地悪な考えが頭に浮かぶ。


「会長・・・俺はまだ諦めてません、僕を生徒会に誘うとき言ってくれたじゃないですか!奴らをのさばらせることはしないって!」


 井上が真剣の目つきで長尾に問いかける。


「井上この世にはどうにもならないことがいくつもある、それがこの件だ、もういいかげん諦めてくれ」


「そんな・・・」


 長尾は少し苦しそうに長尾の問いかけに目を合わせず答える。

 井上はそれを聞くと悔しそうに唇をかんでいる。


「それで?和解内容はどんなのです?」


「和解内容は集金額の緩和、生徒会が対武田家への窓口となりその仲裁役となることの容認、そして生徒会は武田家への反抗は行わないこと、最後に生徒会に監視役をおくこと」


 監視役?いったい誰だ?


 ギィ


 長尾の話している最中にまた生徒会室の部屋が開く。


「遅くなりましたー」


 その男は気だるげに歩いてくる、長身で髪は長く片目しか見えないが、耳と口にピアスをしている。

 目には半開きでクマがある、全体的に眠そうな男。

 こいつからは何かすごい嫌な雰囲気を感じる。


「あ!高ー!」


 その男が現れた瞬間、柿崎がその男に駆け寄り抱き着く。


「柿ーうぜぇってーそういうの」


 互いに渾名で呼び合っている様子を見るにカップルのようだ。


「この人達は?」


 その男は柿崎をどけると俺らの後ろに立ち長尾に俺たちについて問いかける。


「・・・新しい生徒会役員だ」


「へぇ」


 男は唯の隣に座ると唯に肩を組む。

 それを見ていた柿崎はムーと頬を膨らませる。


「よろしくね、次元流次期当主立花唯ちゃん」


 その男は不気味な笑顔で唯に握手を求める。


「知ってるのか?」


「そりゃ、うちの馬場を出し抜いた子だからね」


 うち?ってことは・・・


「どうも、俺は武田家【四天】高坂、生徒会に協力を仰ぎにきたんだろうけど残念だったね」


 こいつが【四天】の高坂か・・!

 見返すとその落ち着いた態度は、強者の雰囲気を感じさせる、さっきの嫌な雰囲気はそれだったのだろう。

 唯は握手しようとする手を弾き、高坂を睨めつける。


「状況わかってないみたいだね?もう君の味方はこの学校にはほとんどいないの。なのに君は俺たちの誘いを断った、意味わかる?後悔してももう簡単には入れてもらえないよ、武田家幹部に手を出しちゃったんだもん」


「先に手を出したのはそっちでしょ?」


「関係ないよ、そんなの、まあどうしても入りたいと思うからさ、俺の女になるなら口利きしてやってもいいよ」


 そういうと小幡は唯の胸に肩を組んだ手を伸ばす。


 ヒュッッ


 触れようとした瞬間神速の刀がその手を狙い飛んでくる。

 高坂は読んでいたと言わんばかりに手を上げそれをかわす。

 唯のシックは相変わらずの精密さと速度だ。


「あぶないなぁ」


 にやにやと高坂は笑う。

 それにしても見ている分にはすごいイライラする男だ。

 唯もこの男の行動にはかなりご立腹の様子だ。


「下衆と付き合う趣味はないし、お生憎その席は埋まってるから」


「へぇだれ?」


 唯はそう言うと小幡から離れ逆の俺の隣に座る。

 馬鹿野郎、俺が目立つようなことはやるなよ!

 少し恥ずかしそうに頬を染めながらも俺のうでに抱き着く、フニフニとあたる胸の感触を感じる。

 いやでも今回は許す!

 俺が心の中で鼻血を出しながらグッドマークを出していると小幡は俺を小馬鹿にする。


「こんなだっさいやつが次元流当主の彼氏?門下は悲しむぜ」


「クソダサいピアスつけてるイキリ野郎と付き合ってた方が悲しむと思うから大丈夫」


「は?」


 俺を挟み煽り合いの応酬が繰り広げられる。

 俺はかかわらぬように置物のように固まる。


「まぁ、いいよ、武田家の本意が俺の本意なわけじゃないし、なにより生徒会内での揉め事も会長が許さないだろうし」


 高坂は警戒するように一度横目で長尾のほうを向く。

 俺は高坂の発言にほっと胸をなでおろす。

 よかった、いちいち戦いになってたら俺の身がもたない。


「ただ、命令がきたら確実に潰すよ」


 その時の高坂の目つきはまるで獲物を狩る狼のように鋭かった。


「なんか気がそれたし帰るわ、業務は明日まとめてやるよ、いいよね会長」


「ああ、いいよ」


「立花ちゃん君のその威勢に免じて生徒会にきたことは報告しないでおいてあげるよ、面白そうだし、せいぜいもがけよ、じゃ柿、今日は先帰るわ」


 高坂は立ち上がり帰ろうとする、しかし何かに気づいたようにその足を止める。


「あ、そういえば謎の男のせいで立花ちゃんに逃げられたって聞いたけど・・・」


 やばい…気づかれたか…

 心音の鼓動が身体中に鳴り響き冷汗が頬を伝う。

 高坂は俺の横まで近づき顔をじっと見つめる。


「ま、それはないか」


 誰にも聞こえないように心の中で大きく緊張を解くため息をつく。

 危なかった、もう少しでバレるところだった。


「あと最後に宇佐美ちゃん」


「は、はい」


「自殺とかしないでよ?面倒くさいから」


「・・・・・」


 宇佐美は苦しそうな顔でギュッと服を掴む。

 高坂はそういうとさっさと生徒会室から出て行く。


「はぁ」


 高坂を見送った後、なぜか柿崎も小さくため息をつく。

 それにしても嵐みたいなやつだったな、唯とのやり取り心臓バクバクだったわ。


「わかったと思うけど、あいつがお目付け役、もしなんかあればすぐに報告して動かれる以上俺たちは君に協力できない、それでもこの生徒会にはいる?」


「わかりました、それでも大丈夫です」


「そうだよね、無理だよね、って本当!?」


 長尾はノリ突っ込みのような勢いの返答をして嬉々として俺の手を取る。


「はい、よろしくお願いします」


「はは、うれしいなぁ、あと、同学年だしタメ語でいいよ」


 長尾は新しく役員が来たことに相当うれしいようでご機嫌だ。

 今日はもう遅いということで、俺と唯は無事生徒会に入れた後生徒会室を出る、井上も俺たちが帰るのを送ろうと部屋から出る。




「今日はすまない、生徒会は力になれないみたいだ・・・」


 井上は落ち込んだ様子で下にうつむき拳を握り締める。


「よかったの?生徒会は武田家とは戦ってくれないのに」


 唯はどうして生徒会に入ったのかがわからないようで頭の上に?を浮かべている。


「さあ、どうかねえ」


 このまま生徒会に平和を続かせるわけにはいかない、短時間で十分ほころびは見えた、生徒会も一枚岩ではないようだ、どこから崩そうか、考えるだけで笑みが止まらない。


「それと、いつでも俺に抱きついていいぞ、俺はいつでもwelcomeだ!」


「はっ?何の・・・」


 唯はさっきの事を思い出し、赤面したと思うと拳を握りしめる。


「忘れろ!」


「え?」


 ドガァッッッ


 唯の一撃が俺の体を壁にめり込ませる。

 いいパンチだ、唯も照れ屋さんだな、ハハッ、気のせいか直江のパンチより痛い気がするよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る