第9話

流夜は頭を掠めた疑問。それを口にする。

「万莉。君は一体、むぐっ!」

流夜の口を押さえ、万莉は言う。

「そんな事言わないで?」

完璧な上目遣いで。返事をしない流夜を不審に思ったのか、万莉は…。

「流夜、。」

今までよりも強烈な甘えるような声。

雰囲気すら変わっている。

今までの万莉は清楚で可憐だった。

今までの万莉とは違う妖艶な仕草。

だが、その二つが相まって、彼女の魅力を引き立てているのも事実であった。

清楚であり艶やか。可憐であり妖艶。

今までの流夜だと今の万莉に骨抜きになっていたであろう。万莉に甘えられれば、何でも許してしまったであろう。

しかし、流夜も今までの流夜とは違う。

考えるのを辞めてしまえば、事は悪い方に進む。

「駄目だ…万莉…!俺に、万莉の事を教えてくれ!」

「っ…!?」

万莉は目を丸くしていた。

「な、何故…?何故、…?」

独り言を言うと、万莉は流夜の目を見る。

「万莉、俺は君の事を知りたい!好きだからこそだ!それに、君が俺の事を知っているのに俺は君の事を知らないだなんて、フェアじゃないだろう?」

「流夜、私は…私は…!」

「玲!!!」

声がした。後ろから。

「紗綾…?なんで!?」


紗綾は危機を感じていた。何故なら、玲に転入してきた美少女が積極的にアプローチしているからだ。今まで、紗綾は玲に変な虫おんなたちがつかないように、追い払っていた。

「玲は、あたしのモノなのに…!」

無意識にハンカチを噛んでしまっていた。

「あの女…!」

玲をデートに誘う積極性。それが紗綾にあれば良かったのだが、あいにく、彼女はそれを持ちあわせていなかった。だからこそ、真姫に羨望を通り越して嫉妬の念を抱いてしまっていた。

紗綾は気づけば、玲を尾行してしまっていた。

デートも見てしまった。もちろん、キスも。

刹那、紗綾の心の底から憎悪という憎悪が湧き上がってきた。紗綾は、今まで、玲を独占してきた。だから、玲を手に入れた気になっていたのだ。だが、現実はそう甘くない。現に、玲は真姫とかいう美少女を選んだ。今まで誰よりも長い時間、側にいた紗綾ではなく。

もちろん、真姫、否、万莉は、当然、紗綾よりも長い時間、玲、否、流夜の側にいた。

だが、怒り悲しんでいる紗綾は、キスを見た時からもう彼らの話は聞いていなかった。

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