第15話舌に残る味

祐希ゆきも、そんな表情カオするんだ」

「……っ。冴悠に、押し倒されたら……なるってば」

フローリングに敷かれたラグから首より上がはみ出て倒れたものだから頭がフローリングについて冷たい。

それと同時に三上冴悠みかみさゆのかさついていない潤った唇やら、キメが細かい白い肌の顔が間近に迫っていて、息が荒くなって思考が正常に働かない。

身体の全身に熱が帯びていき、真冬だというのに微かに暑さを感じている。

先ほどまで悴んでいた指先や足先が僅かに温まってきた。

悪戯を楽しむような恍惚感と妖艶さをまじわせた声で発せられるものだから、身体中が汗ばんでもきた。

「あっ、ぐぅあっ……んんっ、んあっ」

口を開けたのを見逃さなかった三上が器用に利き手で摘んでいた小さく黒い塊を、私の口に押し込んできた。

口内に広がったのは苦味とほんのり広がる甘さだった。

何年ぶりになるだろうチョコの風味が口内を満たしていく。

上げていたくぐもる呻き声は小さくなり、チョコが喉を通ったのを確認した彼女が口を塞いでいた手を退けた。

チョコの感想を聞きたそうな、期待を込めた瞳を下ろしていた。

今にも口端が上がりそうである彼女だった。

「んっ……はぁはぁ、美味しかったよ、チョコ」

「そう。来年は祐希も手作りを、ねっ。それと……食べさせてね、私みたいに」

表情は平常心を保とうとしていたが、言葉でご満悦なのは感じられた。


たまには、こういうのもいいかもしれない。


そう思ったバレンタインデー、だった。

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