第12話ずぶ濡れだったアナタに懐かれ、惹かれあっていく

「あっんぅ……」

「ごめん、恵依めい……欲しがってるって勘違いして」

ベッドに仰向けで横たわる彼女のはだけたシャツから露わになった腹を指先でスッと撫でた私は、短く喘ぎ声を漏らした彼女に謝る。

いくら同性といえど、可愛い女子の喘ぎ声は心臓に悪い。

背徳感……というのだろうか、そういうのを感じざるを得ない。

いかがわしいモノに触れてこなかった私だけど、喘ぎ声は刺激的だ。

「ううん、あってる。続けて、アカリちゃん」

とろんとさせた瞳で見つめながら、唇を震わしながらお願いしてくる彼女。

「で、でも……」

私は躊躇して、引っ込めた手の指が僅かに震えるのを感じながら、目を瞑る。

「続けて。アカリちゃんの温もりに触れたいの」

懇願するような、それでいて柔らかい声音が私の耳に届き、

「わ、わかった。恵依がそう言うなら——」

そう応えて、彼女の腹に指先を触れる。



——。


「はぁはぁ……アカリちゃんと出逢えて、幸せ者だよ。私は」

「大袈裟だよ、恵依……でも」

「でも?」

荒い息が整わないままに続きの言葉を促す彼女。

「でも、恵依といられるこの瞬間じかんが自然と笑顔になれるかけがえないものだって……実感してる、ありがとう恵依」

「私こそありがとうだよ、アカリちゃん。アカリちゃんがあのとき、手を差し出してくれたから……それに、私を受け入れてくれたから、今の私が居る。ほんとに、ありがとう。アカリちゃん、大好きだよ」

「私も、恵依のこと……好きだよ」


窓からは激しく叩きつける雨粒の音が聞こえるが、二人には何ら影響はしなかった。



彼女——葛河恵依つづらがわめいとの出逢いは、今日みたいな雨降りの日だった。

三ヶ月前の六月——黒々とした雨雲が空を覆い尽くし、光も差し込まない雨降りの日、バスを降り、店々が建ち並ぶ都会よりは幅の狭いストリートを傘を差しながら駆けていた私の視界に制服姿の少女が傘も差さずにしゃがみ込むのが入った。

今にもその場にへたり込みそうな少女に近寄って行き、膝に手を置く体勢にとどめる中途半端な屈みで声を掛けた私。

「あなた、こんなとこに傘も差さずに居たら風邪ひくよ。何があったか分かんないけど、このまま居たら危ないから行こう。ほら、めっちゃ冷たいよ手。風邪ひく前に体を温めないと。私の家、近くだから行こう」

少女に手を差し出して、彼女が伸ばした手を取り引き上げると、彼女がくしゅんっと、くしゃみをした。


それから彼女が懐いて、自宅に入り浸るようになり、から友人という関係性に至り、現在いまである。


他校の女子高生である彼女が、自宅付近のあのストリートの中央にしゃがみ込んでいたのか……



「それにしても、随分と明るくなったよね恵依ってさ」

彼女との出逢いを思い出しながら、本音を漏らす私。

「アカリちゃんのおかげだよ。ありがとう、ほんと。アカリちゃんの隣にみあう女子わたしになる為に……って必死に食らいついたの。どうかな、成れてるかな……私?」

「ほんと恵依ってばいちいち大袈裟なんだって〜ぇ。成れてる、充分だよ」

えへへ、とむず痒そうに照れながら、頬をぽりぽり掻き笑う彼女。


私は、彼女とのなんでもないたわいないこんな瞬間じかんを過ごせることが、幸福なんだと実感しながら噛みしめていく。








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