第7話☆キララ

さんさんと照り付ける夏の陽射しに肌を焼かれ、毎年暑い暑いと愚痴がこぼれるこの季節は正直言って嫌いだ。


だけど、今年の夏はときめきを覚えた。何年かに一度、この時期──うだるような暑さが続く夏休みに、両親に連れられ、田舎に帰省する。

今年の夏休みがその何年かに一度の帰省だ。


久しぶりに見る景色を最初ははしゃいで眺めるが、4日も滞在すれば田舎の景色も新鮮さを感じることが無くなる。

昨日、私は恋に落ちた。

男性に、ではなく女性──年齢としの近い美少女に一目惚れした。


いてもたってもいられなくなり、朝早く──午前8時に両親の実家を飛び出し、一目惚れした美少女がいた場所に駆け出した。

外は通行人がまばらで閑散としていて、セミのうるさい鳴き声ばかりが聞こえる。


彼女を見掛けた──駄菓子屋の前にぽつんと置かれたベンチには、彼女の姿はなかった。

それもそのはず、まだ店は開店前なのだ。私くらいのものだ、朝早くから外を駆け回っているのは。


早く会いたい、早く彼女に会いたい......と胸の内で願っていると、前方から「あれっ......?」と聞き覚えのある声が聞こえた。

顔を上げると、昨日と似たような服装の彼女が立っていた。

「ああぁ、ああっ......」

声にもならない声を人知れずあげる私に駆け寄ってくれる彼女は、微笑みながら、「また逢えたね。嬉しいよ」と声を掛けてくれた。


うだるような暑さも凍えるような寒さも吹き飛ばしてくれる彼女の笑顔を一人占めしているんだ、としみじみ感じた。

彼女が私の通う高校の生徒で、同級生だったら──と感じるほどに夢中だ。


「一緒に海に行かない?」

「えっ......ぁあっと、はっぁはいぃっ!」

唐突なお誘いに緊張して、声が裏返った私だった。

プフッと吹き出した彼女に恥ずかしさのあまり顔を見れなくなった。


20分ほどして、海が広がる砂浜に到着し、波打ち際から距離の離れた位置に腰をおろした私達。


「昨日は海に入った?」

「水着を、持ってきてなくて......」

「そうなんだ。海の行き方を訊かれたから、てっきり入ったかなぁ~って......」

「......っとぅ。恋びっ......なんでもない、ですっ......」

「私さぁ、友達いなくて......辛いことがあったら、こうやって海眺めてさ......うじうじ悩んでんの......」

「いっ意外っ......です、モテそうなのに......」

「そうでもないよぅー、モテたことない。お世辞でも貴女にそう言われて嬉しい。ありがとう」

「お世辞なんて......」


会話をリードしてもらえ、なんとか会話が続いた。


昼前には彼女から会話を切り上げられ、別れることになった。



***


翌日も彼女に会いたくて、探したが姿はみあたらず陽が暮れた。


彼女に出逢って5日が経った頃、海に赴き、彼女が波打ち際に立って砂浜に向かってくるさざ波を足で蹴っていた。

学校の制服らしきセーラー服姿の彼女だった。

私は砂浜におり、彼女のもとに駆け出し声をかけた。

「あのっ、どうしてセーラー服なんですか?」

「貴女か、ビックリしたぁ!うぅ~んとぉ、補習......」

振り返った彼女は驚いてから言いにくそうな渋面をつくり、ひとさし指で頬を掻いた。

「もう会えないかと思って......二日間も探して」

「ごめん。いつまでここにはいるのか、訊いていい?」

「あと、三日です......」

「そう、なんだ......明後日、夜の七時にここで会える......かな?」

「来ますっ、必ず来ますっ!」


私は彼女と約束を交わして、小一時間会話を交わした。


***


彼女と出逢って、もうじき一年になる。高校生でありながら、両親に帰省したいとねだるのはみっともないと感じたが、彼女に逢えるならこのくらいの羞恥心は捨てる。


別れる際に約束したから、来年も逢おうねって。


彼女と再会したら、第一声は決まってる。






*はにわさんの『キララ』という曲を聴いて書きたくなった話です。

こちらは百合バージョンって感じです。気になったかたは、曲を聴いてください。



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