第3話 スキル検証と謎の洞窟
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4/11 加筆修正
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成人の儀から二日が経った。今日はスキル検証を行うことにした。というのも、最優先にすべきは自らの技量をできる限り正確に知っておくことだと考えたからだ。できる事とできない事をはっきりとさせておかなければ、後々困ることになるのは自分だ。
面倒くさい、労力の消費は最低限に、と常日頃から思ってはいるが、すべてを投げやりにしていては念願のスローライフなど一生手に入らない。妥協してはいけないこともあるのだ。しっかりやらなくては。
教会から森の中へと歩みを進め、目的地に辿り着く。首から下げた懐中時計の長針がちょうど一周するところだった。時計の裏蓋には”アンブラ”と名前が彫られている。この時計は、以前誕生日にイブから貰ったものだ。
この村には、村が創造された際に当時の聖女が張ったとされている、近辺の森ごと村を覆う巨大な結界がある。そのため危険度の高い魔物は出ない。小さなウサギや鳥、鹿などは、脅威の対象と認識されなかったのか入れる仕様となっている。因みにそれらも全て、例外なく魔物として分類されている。
まずおさらいだが、俺の能力は対象物の存在削除。果たしてこれはどの程度まで削除できるのか。
朝食によく出る、赤く丸々とした果実、ボリンゴをとっておいたので、これで試していく。
〈
スキルを発動すると、ボリンゴを薄い膜のようなものが覆った。おそらく今、ボリンゴは周りの人から見ると突然消えたように見えたに違いない。
「これは...こんなに薄くてだいじょうぶなのか。でも、やってみるしかないか。それっ。」
小石を投げてみると、ボリンゴの手前で、小石が避けるようにして軌道を逸らした。
「ふむ、だいたい握りこぶしが2個ほどの位置まで近づいたところで避けるのか。」
もう一度、同じ試行を繰り返す。やはり小石は先程と距離感を同じにして、自分から避けた。
余裕が無いわけではないが、相手が先日のように火魔法のような、攻撃が当たっていなくても間接的にダメージを与えてくる魔法を使ってくる相手だと、無傷で避けるのは難しいかもしれない。
ならば範囲を大きくしてみてはどうだろう。そう意識すると、膜はグイっと要望に応えるようにして広がった。わざわざスキルをその都度発動せずとも思考するだけで自在に形を変化させることができるらしい。便利だ。
次に少しばかり狙いを外して投げてみる。
するとどうだろうか。小石はひどく不自然に、まるで風にでも引っかかったかのように僅かに右へと押し出された。因みに投げる位置を左の方に変えると左へ押し出された。
つまり、変幻自在の障壁バリアとして使うことが可能ということだ。
次にやることは、
〈存在削除:ボリンゴ・部分 〉
ボリンゴの右半分のみに限定して左側に石をあてる。結果は予想通りのものだった。石は果実の左のみを綺麗に穿った。
「うわ、予想してたけどこれは勿体ないことをした。ごめんなさい。」
洗ってから美味しくいただきました。
気を取り直してこの森で一際目立つ巨大な岩に向き直り、今までよりもいっそう神経を研ぎ澄ませてスキルを発動させる。
〈
強く吸い取られるような感覚が体を襲う。神の、スキルの発動には精神力を使用するという言葉の意味を身をもって体感した瞬間だった。
岩の色素がどんどん薄くなっていく。先程と比べて、スキルによって自分の何かが消費されているのが明確にわかる。
「う、う"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ」
森の中に絶叫が響き渡り、楽しげに鳴いていた小鳥たちの声がピタリと鳴き止んだ。激しい頭痛に襲われ、目もチカチカする。そのまま意識は闇の底へと沈んでいった。
目が覚める。いや、自分の心に誰かが介入来てきたという表現の方が正しいのかもしれない。
夢を見た。微細な緑色の粒子が飛び交う、如何にもといった神々しさを放つ鬱蒼とした森の中に、不自然な程に発展した国が佇んでいる。うちの村ではない。そんなレベルの大きさではなかった。国と森を隔つ壁はたいそう立派であった。
しかし、そんなことはあまりに些細なことに過ぎないとでも言うかのように、ただただ眼前には身が震えあがるような光景が広がっているのだった。燃えているのだ。城下が、街が、そして人が。中心にそびえ立つ大きな城。その周りには王族と平民の身分の差を象徴しているかのように深い、それはそれは深い堀が掘ってあった。
城内には、使用人や兵士の死体がそこらかしこに転がっている。割合的には兵士の方が多いようだ。兵士たちは燃え盛る炎に焼かれ、彼らの身につけていた鉄鎧はその熱気のためか所々溶け、焼きただれた肌が露出していた。そして、
緑の粒子に紛れるようにして飛ぶ火の粉は、あまりに美しく幻想的で、国が滅ぶ様を静かに見守り、讃えているようだった。
夢から覚めると太陽は真南へ登り、西へと若干傾き始めていた。大岩は跡形もなく消え去り、まっさらな更地が広がっているだけだった。
ふと違和感を覚える。大岩が取り除かれたその地面の辺りが、すごく気持ちが悪い。まるで何かが意図的に《消されている》ような.....
「もしかして何かのスキル?」
〈 解除 〉
何の気なしにそう唱えると、地下へと続く階段が現れた。階段は長く、先には何も見えない闇が広がっている。穴に風が吸い込まれるように吹き込み、背中を押される。早く入れと急かされている気がしてくる。
短い思考の後、意を決して階段を降り始める。コツコツという自らの靴の音のみが、何重にも反響して不気味さを引き立てていた。
地上の光が届かないところまで来たところで、左右の壁に設置してあった松明に淡い光が灯り、辛うじて足元が見える明るさになった。
最後の一段を降りて歩みを止めると、思わず目の前に広がる光景に魅了された。人ひとりが入るにはあまりに大きすぎる空間。地下だと言うのに空気は澄んでいる。地面は石畳になっており、重厚感の漂う柱が間隔を狭くして続いている。石畳の、大小さまざまに石が並んでいる様や、柱の彫刻の精巧さが、その技術力の凄さを物語っていた。辺りは青白い光に包まれていて光源の代わりとなっていた。光は彫刻や、ひび割れた壁から染み出ている流水から発せられていた。
あまりに不思議な光景に見惚れながらも、一本道をしっかりとした足取りで進む。終着点にあったのは、巨人族専用に作られたと言われても納得できそうな程に大きな扉。鉄とも青銅とも言えない素材で作られているようだ。
「なんでこんなにでかいんだ。一体中に何が...いや、見てみればわかる事だ。」
状況を飲み込めず訳の分からない自問自答をしてしまった。それだけ驚いたいたという事だ。許してほしい。
固く閉ざされた重々しい扉は到底人ひとりの力で開くとは思えない。ところがどうだろう、手を据えて力を加えるはずが、手を添えただけでひどく簡単に扉が開いたのだ。より一層不気味さが増すばかりだったが、覚悟は決まっている。躊躇することなく先に待つものへ望むのだった。
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