ボーイミーツガール=恋愛じゃない。

狩野すみか

第1話 ボーイミーツガールで恋愛じゃない。

「ボーイミーツガールで恋愛じゃない」というと、多田に笑われた。

 彼は、男女の友情は信じないという。

「そんなものは、この世に存在しない」

 と言われて、とても傷ついた。

 私には、インスタだけでつながっている絵描きの友達がいる。

 偶然、私が彼の作品を気に入って、インスタだけでつながることになったのだが、彼は、日本で活躍するイタリア人として、イタリア文化会館で紹介され、個展を開いたこともある人で、テキスタイルのように、鮮やかな色を何層も重ねたアクリル画を描いている。

 私は彼の作品が好きで、神戸の小さなカフェ兼ギャラリーにも、彼の個展を見に行ったことがあるけど、そこには、いわゆる恋愛感情というものはない。

 何でも、恋愛に結びつけようとするのは、多田の悪いクセだと思うのだが、彼はその悪癖を自覚していない。

 それを清夏きよかに話すと笑われた。

「あんたがあまりにも、そのイタリア人の画家さんのことばかり話すからでしょ?何でもかんでも恋愛に結びつける多田も多田だけどさ……」

「でも、ジョヴァンニさんは友達だよ?」

 きょとんとして、アイスティーのストローを離して私が言うと、大学に入学して以来ずっと付き合いのある清夏は、やれやれという風に笑って、

「あんたも、その鈍感さ、少しは自覚した方がいいかもね」

 と言った。

「……鈍感さ?」

「まあいいや。あんたは、そのままでいて」

「ん?」

「あんたは、それが魅力だから」

 と、ますます訳の分からないことを言った。

「……それって、ねんねってこと?」

「あんた、まだ、大学のときに、七実に、『bébéベベ』って言われたこと気にしてんの?」

「悪い?」

「悪くないけど、これじゃ、先が思いやられるわ……」

「先?」

「だから、何でもないって」

 そば粉のガレットにフォークを伸ばしながら、清夏が、

「さあ、早く食べて、あちこちまわろう。久しぶりに会ったんだからさ」

と話を閉めてしまった。

「うん」

 モヤモヤは残ったものの、土日休みが珍しい彼女との時間を私も大切にしたかった。

「おお、噂をすれば多田だよ」

 清夏がバイブ音のしたスマホをミニリュックから取り出して、メッセージを読み上げた。

「これから来るってさ」

「げげ……」

「ほら、そんな顔しないの。あいつ、この近くにいたみたいだから、すぐ来るよ」

「……大体みんな、幼なじみとか、同級生に夢見すぎなんだよ!」

「……まあ、気持ちは分からんでもないけど。あんたと多田は犬猿の仲というか、多田の永遠の片想い……」

 隣のテーブルで、どっと笑いが起こり、清夏の言葉を打ち消した。

「え?ごめん。最後のとこ、よく聞こえなかった」

「多田は、いつも、あんたに対して一言多いから」

「そうなんだよね、あいつ、いつも、いつも、本当に嫌になっちゃう」

「本当に好きな子は、いじめちゃだめだよ」

「え?」

「いや、何でもない。ただのひとりごと。今度、多田に言っとこ」

「ひとりごとなのに、変なの」

 アイスコーヒーを啜りながら、清夏が言った。

「変じゃないの。多田は、自覚してないみたいだけど、大事なことだから」

「大事なこと?」

「そ」

「何のこっちゃ……」

「あんたはまだ分からなくていいの。ボーイミーツガールだけが、人生じゃないんだから」

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