月の裏側 第六章・赤目

『ソフィア!どこ!』


ソフィアは誰かの叫び声で目を開けた。


周りには大きな火があるが足がとても熱くて動けない。


ここは何処なのだろうか。よく分からない。


『ソフィア!!』


突然、目の前に現れたのはあの赤毛の少女だった。


『良かった…今助けるから!』


彼女は私の腕を肩に回しゆっくりと歩き始めた。


『バン!!』


突然、目の前に木の柱が落ちてきて行く手を阻まれる。


『そんな…』


隣にいる彼女の横顔は絶望の顔に変わっていた。


逃げ道がなくなりソフィアは壁の方によりかかろうと彼女の手を借りながら座る。


その少女も私と同じように座り私の手を取った。


『ソフィア…ごめんね…』


彼女は泣きそうな声でそう言った。


『ずっと一緒にいようねって…約束したのに…私…嘘ついた…』


彼女の目からは大粒の涙がポロポロと出ていた。


ソフィアもその姿を見て、何故か目頭が熱くなっていた。











『ソフィア!』


『……ん』


『ソフィア!!早く起きて!』


エリーゼがソフィアの耳元で叫んでいる。


『…エリーゼ?』


『もう!戦場に遅刻なんてシャレになんないからね?』


ソフィアは寝ぼけていた頭が一気に覚醒し身支度を猛スピードで整えた。


いつもなら丁寧に服を着てきちんと身だしなみを整えていたがそんな時間はない。


髪の毛がボサボサのまま、部屋の扉を吹っ飛ばすように開ける。


『ちょっと…!待って…!』


後ろで息を荒くしているエリーゼを他所に目的地まで全力で走る。


目的の場所まで着くと当然みんな、既に揃っていて準備完了のようだった。


『…遅刻寸前だぞ』


『はぁ…はぁ…はぁ…す、すいません…』


息切れをしながらも自分はなんてことをしたんだと責める。


『すいません!遅れました!!』


『お前は遅刻だ』


エリーゼはポカーンとした顔をしている。


『大隊長、司令官から最終確認をとるよう命令が』


『皆、銃も飛行装置もあるな?』


みんな自分の持ち物を確認している。


ソフィアは朝急いでいたため銃と飛行装置の動作確認をしていない。


『点呼をとる!まずは兵と下士官からだ』


リザベル少佐殿は次々と最終確認をとっていく。


『よし、これで確認はとれた。ソフィア、離陸の許可を』


『はい』


ソフィアは離陸の許可をもらうと前方の大きな厚みのある扉が開き始める。


扉が開き終わると皆一斉に扉の方まで走り空中へと落ちていく。


エリーゼも何も言わずに空中の世界へと行ってしまった。


自分も意を決してダッシュし、空中へと飛び込んだ。


バラバラだった軍隊は整列し綺麗に並んで前線に向かっている。


私達が今向かっている場所はゼンゲル人が誕生したと言われる島国だ。ゼンゲル島と言われている。


ゼンゲル人がリトアリア共和国を攻撃してからその島にみんな集結したらしい。


だからいつ不意打ちに合うかわからず、この海しか一面にないところに逃げ場はない。


そう思うと怖いが、罪のない人たちを殺したりしたんだ。許せるはずがない。


『さっきも部隊が送られたばかりだが連絡がつかない』


飛行装置からリザベルの声が聞こえている。


『皆、気を引き締めろ。敵はどんなことをしてくるか分からない』


そう、相手は魂を扱い神のような力を持つ奇妙な一族だ。どんな目にあうか分からない。


ソフィアはレーダーを見ながら敵どこから出てくるかきちんと見張っていた。


だが予想もしないところから敵を探知した。


『後方!!後方から敵の大群が!!』


『バァァアァン!!!!』


そう言った途端後ろから突然大きな爆発音が聞こえてくる。


『!!!!』


皆、その爆発を避けるようにバラバラになっていく。


『……っ!!』


ソフィアは次々と来る弾を避け敵の方に銃を乱射する。


『ヒューー』


何か黒い物体が風を切りながらこちらに向かってくる。


『………!』


ソフィアはその黒い物体を理解するのに数秒もかかってしまった。


それは……


爆弾だった。


『バァァアァン!!!!!!!! 』


大きな爆発音とともに私は意識を失った。













『うっ……ん…』


ゆっくり目を開けると冷たい雨が体をうちつけていた。


そして周りにはリトアリア人であろう死体が大量にあった。


何故か知らないが、自分は小さな陸の上にいた。さっきまで全体は海に覆われていたはず。島なんてひとつもなかった。


『……うっ!』


重い体を起こすと酷い頭痛が襲ってくる。


『うっ!あぁ!!』


頭を打ったのだろうか、ものすごい痛みが止むことなく続いている。


痛みに絶叫していると自然に目線が目の前の水溜まりの方に向く。


反射している自分の顔を見て驚愕した。


目が赤かったのだ。


目からは血の涙が流れており何もかもがおかしかった。


『ソフィア!!』


突然空中からエリーゼの声が聞こえてきた。


『ソフィア!どうしたの!?』


エリーゼが何かを言っているようだったが激痛で何も聞こえなかった。


ソフィアはそこでまた意識を失った。










『とりあえず良かったよ…軽傷で…万が一のことがあったら…………』


ソフィアは戦場で倒れたあと、エリーゼ達が運び、そのあとこの基地船の病室で治療を受けていた。


『ちょっと…人が心配してんのに無視ー?』


『あ…ごめんなさい…』


『ま、別にいいけど…』


『少尉、軽傷で良かった』


突然カーテンの向こうからリザベルが現れた。


『はっ!少佐殿!』


ソフィアはずっとリザベルに釘付けになっていた。


『エリーゼ中尉、少し席を外してくれるか?』


『…え?わっ…わかりました』


エリーゼは足早にこの場を立ち去った。


エリーゼが立ち去るのを見届けるとリザベルはソフィアの方に振り向いた。


『色々なことがあっただろう、ソフィア』


リザベルはそう言うとベットの横にある椅子に腰をかけた。


『今日起こったことを話してみろ』


リザベルは一切顔を背けずじっと私を見ていた。


『…私は……』


『…目が赤くなった』


そう言われるとソフィアは何も答えられずただ赤いリザベルの目を見ることしか出来なかった。


数秒程、目を合わせているとリザベルは立ち上がりコップにお湯を注いだ。


リザベルはお湯をその場で飲むと背を向けたまま口を開いた。


『私は20年前この世界に…いや、この国に来たんだ』


『………………………』


『最初はこの国のことを信じてた、私を研究をしているんだなと信じきってた』


そう言うとまたリザベルはお湯を口に含んだ。


『だが、裏切られた』


リザベルはソフィアの方に振り向く。


『私達は裏切られたんだ、この国に』


リザベルはソフィアのそばまで近寄ってくる。


『後でここの基地船の教会堂まで来るんだ。そこで真実を話そう』


リザベルはそう言うとカーテンの向こうへと行ってしまった。


『……っ………』


ソフィアの手は小刻みに震えていた。

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