第14話 登校

「よーし。じゃあ学校に行こっか」


 紗耶さんの朝食を堪能した後は学校に行かなくてはならない。学生だからね。


 それにしても紗耶さんの卵焼きは美味しかった。だし巻き卵で固さが俺の好みにドンピシャだった。それこそ毎日食べたいと思うほどに。


「じゃあ先に紗耶さんが家を出て、俺が後から出るよ」


 流石に同時に出るのは危険があるだろう。家の近くにも同級生などの学校関係者はいるから。


 一緒に登校しているところなんて見られたらこんな田舎町下松でも噂になるってもんだ。


「いやいや何言ってるの真夏くん。せっかくの機会なんだから一緒に学校行こうよ」


 俺の彼女を慮った思考など知らんとばかりに紗耶さんは提案をしてくる。そんなことをしたら君に迷惑がかかってしまうのに。


「あ、俺いつも自転車なんだよ。あの風を切る爽快感が好きでさぁ。だから悪いんだけど、別々ってことで」


 少し無理があるだろうが、これで一緒に行く理由は無くなった。俺の家から高校までは別に歩いて行けない距離ではない。俺も雨の日はカッパ着たくないなら歩いて行ってるしな。


「心配ご無用! 真夏くんが自転車で登校してるっていうことを事前に聞いていたので自転車は準備してあります!」


 ビシッと指差す方には確かに俺のものではない自転車が一台ある。


「これも優待です。一緒に登校するためのね」


 朝から頭がふらふらしてきた。もはや優待の定義がわからなくなってくる。優待って俺宛のものではないの?

 

「ほらほら行くよー。学校遅れちゃう」


 俺の逃げ道を完全に閉ざした紗耶さんは楽しそうに腕時計を見ながらアピールしてくる。俺も渋々ガレージから自転車を運んで荷物を乗せた。


「それじゃあ行ってきます。お義母さん」


 そのまま紗耶さんに連れられるように俺は家を後にした。


「風が気持ち良いね真夏くん」


 髪を靡かせながら自転車を漕ぐ紗耶さんが語りかける。その姿は清涼飲料水のCMに抜擢されそうなほど爽快で可愛らしい。今から学校が始まるとは思えないような表情だ。


「そろそろ人も多くなってきたし離れようか」


 ちらほらとうちの高校の制服を着ている生徒の姿が増えてきた。下松市が田舎なせいなのか東京などの都会の高校のように制服のデザインがオシャレなわけではない。


 しかし、紗耶さんはこの学校ではある程度顔の知れた人気者。そんな人が男と話しながら登校しているなんて知られたらすぐに噂になる。


 特に田舎は噂とかが広まるのが早いのだ。厄介。


「ダメだよ。私たちが一緒だってこと、みんなに見せつけるくらいで行かないと」


「何のために!?」


「お、真夏じゃん。待て待て。何で横に藤本さんがいるんだよ」


 時すでに遅し。俺の友達黒澤大翔が不審そうに俺たち二人のことを見ていた。



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