第三話 精霊

 大陸王城の東隣にある精霊堂の前に着いた。精霊堂の入り口の扉は開いていた。すでに精霊授与の儀式は始まっていたのだ。まあ、第一の卒業生から順に行っていくため、第二の卒業生である僕の番はあと約10分後といったところだろうか。


――『精霊』について。


 精霊には神族や神獣族、妖精族、植物族、昆虫族、獣族など多種多様の種族がある。

 また通常精霊と上位精霊がおり、神族や神獣族は全て上位精霊とされる。他の種族にも上位精霊がいるが、通常精霊もいる。上位精霊は潜在能力が高く、特殊能力もある。対して、通常精霊には上位精霊と比べたら潜在能力は高くないし、特殊能力もない。特殊能力に関しては一部例外があるので後述する。一見、通常精霊は弱いと思われるが、そうではないのが精霊の面白さである。上位精霊を持つの冒険者が努力を怠たったりすると通常精霊以下の弱さになり、通常精霊を持つの冒険者が努力をすれば上位精霊にも抗えるほど強くなるのだ。

 冒険者団バイオレットの団長フィリップ・ホートンは通常精霊持ちでありながら団長になっている。努力すれば誰だって団長になれる、通常精霊を持つ者たちの希望の象徴と言えよう。なので、バイオレットの団員は通常精霊の者が多い。

 だから、もし通常精霊を授与されたからといって悲観する必要はない。もちろん上位精霊を授与されたからといって驕ってはいけないのだ。


 続いて、精霊の属性について。精霊には属性は存在する。主な属性としては火、水、天、地の4つであり、大属性とも呼ばれている。基本的には大属性から細かく派生され、例えば氷を操る精霊は大属性で言うと水属性である。

 またそれら4つの大属性以外にも近年は光属性を新たに大属性として加えようと言われているが、まだ正式に大属性にはなっておらず、特殊属性という位置にいる。

 この大属性間で相性というものは存在しないが、火は水で消えるなど日常生活でも分かるような性質は精霊の力であろうと変わらない。


 次に精霊の対者ついしゃについて。

 対者とは精霊のパートナーの冒険者のことである。例えば、僕が精霊Aを授与されたとする。僕はその精霊Aの対者である、ということだ。精霊と対者は冒険者を引退するとき、もしくは殉職したときに精霊返還の儀式を行い、ここで精霊と対者の関係が切れるのだ。

 また通常精霊と上位精霊の違いとして、上位精霊はこの世界に一体しかいないが、通常精霊は複数体存在する。そして、一つの前提として、精霊は複数の対者を持つことはなければ、冒険者が複数の精霊を持つこともできない。つまり、現時点で誰かしら対者を持つ上位精霊は今回の精霊授与の儀式では誰にも授与されないということになる。


 最後に封石化ふうせきかと武装化について。

 精霊には封石状態と武装状態の二つの姿がある。また、それぞれの状態になることを封石化、武装化と言う。

 封石状態は精霊が宝石の入った装飾品となる。指輪だったり、ネックレスだったり人によって様々である。その装飾品は何故か外れたり壊れたりはしないのだ。なので、誰かに精霊を奪われるという心配もない。そして、武装化するとその装飾品が消えて、武装状態となる。

 武装状態は対者の身体能力が強化されることに加え、精霊が武器や装備になることだ。剣や盾、斧、槍、弓、杖、水晶などである。また獣族に多く見られる武装状態が、武器ではなく、その精霊の特徴が対者に体に現れ、いわゆる獣人のような姿になるというもの。武装状態には大きく分けて4種類あり、剣や斧、槍、弓などは物理武装、杖や水晶などは魔法武装、先述の獣族の精霊に多く見られる変身武装がある。

 変身武装以外の3種類は封石状態と同じく武器が壊れたりすることはないが、相手の攻撃などで弾かれた場合は手から離れてしまう。変身武装に関してはそもそも武器がないため、この効果は適応されないが、他の2つの武装状態に比べ身体能力がより強化される。また、魔法武装は色んな魔法を覚えることが出来るため、通常精霊だろうと上位精霊だろうと特殊能力はない。変身武装は武器や魔法がないため魔法武装とは反対に通常精霊なら1つ、上位精霊なら2つ特殊能力を得る。


――『精霊』については以上である。


 精霊堂の扉の中へ入ろうとすると、精霊堂から出てくる胸にⅠの校章がついた女子生徒2名とすれ違った。片方の生徒は左手小指に指輪が、もう片方の生徒には右耳にピアスが付いている。おそらくもう精霊を授与された第一の卒業生だろう。すれ違う際に会話が聞こえてきた。


「私、通常精霊だった……。正直、上位精霊が良かったなぁ。そっちは?」

「うちも通常精霊だったよ。でもね、落ち込むことはないよ。大事なのはこれからだよ。通常精霊でも絶対強くなれる!お互い頑張ろう?」

「……うん!」


 いい友情だなぁ……と思いながら、僕は精霊堂に入るのだった。


 精霊堂に入ったら、そこは大広間だった。大広間では大きな赤い絨毯が端まで敷かれており、天井に電気がたくさん付いており大広間全体を照らしている。大広間には精霊授与の儀式が終わった第一冒険者学校の生徒、もしくはこれから精霊を授与される第二、第三の生徒がおり、約40人近くいた。皆それぞれ友人と雑談をしており、ガヤガヤとしている。

 大広間の奥には3つの木製の扉があり、右奥の扉の上には「第一特別室」、左奥の扉には「第二特別室」と書かれており、中央の扉には「大精堂だいせいどうへの廊下」と書かれている。精霊授与の儀式は大精堂で行われる。また第一特別室に出入りする卒業生も見受けられた。

 僕は大広間に入ってからすぐ大広間の隅を陣取った。そして、壁を背にして、ぼっーと辺りを見回した。こんな視線が多そうな場所で読書は流石にできないし、雑談する相手が僕にはいないので、こうするしかなかったのだ。もちろん僕のことを話している声も聞こえてきた。


「あれって、『第二の秀才』くんじゃない?」

「あの人、どんな精霊を授与されるんだろうね。実は案外、弱い通常精霊だったりして。」

「アハハハハ。それは面白いね。」


 何が面白いのだろうか。さっきの第一の卒業生は僕に気にせず、あんなに良い友情を見せてくれたのに。とりあえず他人の心配よりまず自分の心配とかしたらどうだ?と言ってやりたい気分だ。まあこんなこと言う時点で、人のことは言えないけど。そもそも赤の他人にそんなこと言うのは僕には無理である。


 僕が大広間に入ってから約2,3分後、中央の扉の前にいる黒い制服きた女性が手に持っていたベルをチリンチリンと鳴らす。ベルを鳴らすとすぐにガヤガヤとしていた大広間が一気にシーンとなった。


「卒業生の皆様。本日は御卒業、誠におめでとうございます。まもなく第一冒険者学校の卒業生全員の精霊授与の儀式が終わります。続いて、第二冒険者学校の卒業生の精霊授与の儀式が行われますので、第二冒険者学校の卒業生の方は大精堂への廊下中央にある、前室となっております第三特別室へとお入りください。繰り返します。まもなく――」


 このアナウンスをしている黒い制服の人は冒険者支援組織、通称『ギルド』の人である。ギルドはその名の通り冒険者を支援、つまりサポートする組織であり、その組織の人はギルドメンバーと呼ばれる。ブレバロード大陸にギルドセンターと呼ばれるギルドの施設が点在しており、ギルドメンバーは普段、ギルドセンターでクエストの受注の受付などの仕事をしており、今は精霊授与の儀式のお手伝いをしているといったところだ。


 アナウンスがあり、第二の卒業生が続々と中央の扉の方へ歩いていく。僕もそれに続いて歩いていく。廊下には長く赤いカーペットが廊下の奥の扉まで続いている。その扉の先がおそらく大精堂だろう。廊下は約20mほどあり、半分10mあたりの右の壁にところに扉があり、その扉の上には「第三特別室」と書かれていた。第三特別室に入ると、部屋の中央に長机があり、その周りを椅子が囲っていた。すでに何人かは座っており、僕は入ってすぐに長机の周りにある椅子をさっと抜き取り部屋の隅に置いて、そこに座った。壁に向かって座ったらただの変人なので、一応、部屋の中心に向いて座っている。部屋に第二の卒業生22名全員が座ったところで、黒い制服を着たギルドメンバーの男性が何か説明が書いてあるような紙束を持って部屋に現れた。


「第二冒険者学校の卒業生の皆様。本日は御卒業、誠におめでとうございます。では、ただいまから精霊授与の儀式の行うにあたって説明がございます。

 まずわたくしが一人ひとりここでお名前を呼びますので、呼ばれた方は部屋を出て大精堂の扉の前までお越しください。扉の前にカゴを持っているギルドメンバーがいますので、そのカゴにバックなどの荷物は全てお入れください。荷物を入れたら扉を2回ノックしてください。ノックをしますと大精堂内にいるギルドメンバーが扉を開けます。

 大精堂の中央には精霊王石せいれいおうせきという大きな石がございます。そこの前で右膝を地につけ左膝は立てて頭を下げます。その際、両手は膝に置いてください。また、目は閉じても開けたままでも構いません。

 そこで精霊王石の奥の壇上にいるマーチ・ブレバロード王から質問されます。質問は3つ。まずは名前です。次に封石状態の時の装飾品ついてです。これは装飾品を付ける場所を言ってください。また耳や手など左右あるものや指は詳しく言ってください。装飾品を付ける場所によって装飾品が変わります。また、そちらのリストに無い場所は付けることが出来ませんのでご注意ください。詳しくはリストを確認してください。」


 そう言うとギルドメンバーは部屋の奥の壁を指す。リストにはこう書かれていた。


「『装飾品リスト』


以下のリストの中から選ぶように


各指……リング


手首……ブレスレット


耳……ピアス


首……ネックレス


注意1

封石状態の装飾品は精霊授与の儀式以降は変更できない。つまり、一度決めたら冒険者である限り、封石状態はずっとその装飾品のままである。


注意2

上記の首以外を選択した者がその選択した場所を怪我などにより欠損した場合、その後の封石状態は自動的にネックレスとなる。


以上」


 なるほど、注意2に関してはあまり考えたくないが冒険者である限り何が起こるか分からないからな。

 続けて、ギルドメンバーが説明する。


「そして、最後の質問は冒険者として精霊と共に歩み、過ごし、生きることを誓うかというものです。もちろん皆さんは誓うと言うと思いますので、こちらは大丈夫でしょう。

 最後に精霊授与の儀式が終了後についてです。第一特別室にてギルドメンバーによる精霊鑑定を行います。ここでようやく自分の精霊が通常精霊であるか上位精霊であるか、また精霊は何なのか、そしてどんな武装化なのか、それら全てが分かります。

 これで精霊授与の儀式についての説明は終了です。また何か質問がある際は荷物をカゴに入れる際に質問してください。」


 長い説明が終わると、説明したギルドメンバーの男性が「えっと…言い忘れたことはないよな…」と呟きながら持っていた紙束をペラペラとめくり確認していく。すると、「あっ!」と思い出したような声を出して、次のことを言った。


「すみません。言い忘れましたが、精霊授与の儀式は出席番号順で行われます。なので、1番は……カイ・ブライトさん。大精堂へお越しください。」


 ――えっ、僕!?……おい、そこ1番大事だろ!言い忘れるなよ!とツッコみたくなったが、そんな暇はもうなかった。僕の名前が呼ばれた瞬間、第二の卒業生全員がバッと僕のことを見た。僕は第二の卒業生全員の視線を背中で感じながら第三特別室を出た。

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