第二話 『第五の天才』

「白髪にも銀髪にも見える髪に澄んだ空のような碧眼!そして、フード付きのマント!君に会いたかった!!」

「……誰ですか?」


 興奮している彼女に一瞬、呆気に取られてしまったが無愛想な顔でそう答えた。彼女は「あっ、ごめんね。」と言い、まず掴んでいた僕の両肩を放し、前のめりになっていた姿勢を正す。彼女から解放された僕も彼女と同時に姿勢を正し、フードを被る。

 そして、彼女は僕の無愛想な顔に構わず、笑顔で僕の質問にちゃんと答えつつ、それに続けて今度は彼女から質問が飛んできた。


「私、リリア・クロウリー。一度、君に会ってみたかったんだ!ねえ、私と友達になってくれないかな?」


――名前を聞いて思い出した。この人だ。この人が『第五の天才』だ。


「『第五の天才』?」


 知らない人に絡まれた際に二言目にはいつも「すみませんが、話しかけないでください。」と言っていた僕だが、あまりの衝撃につい別のことを言ってしまった。そして、リリアはそれに答えるようにこう言った。


「そうだよ。周りからそう呼ばれてる。まあ、私はあまり好きじゃないんだよね。かっこいい称号を得た感じだけど、正直いらないし、邪魔……かな。」

「……分かる。」


 リリアに対して、すごく共感持てたのでふと心からの言葉が漏れてしまった。リリアは僕とは違いおそらく人とコミュニケーションが苦手ではなさそうで友達もいそうだが、そういう彼女でもやはり苦労しているんだろう。


「だよね。だからさ、私たち似たもの同士ってことでさ、友達になろうよ!ね、いいでしょ?」


 そういえば、さっきもそんな質問していた。さらに似たもの同士という言葉から、僕が『第二の秀才』だとちゃんと分かってる。まあ分かってなかったらなかったで、なんで俺なんだ?ってなるけどね。

 純粋そうなリリアの笑顔からは何も考えが読み取れないので、僕はその質問に答える前にもう一つ疑問に思ったことを質問する。


「目的とかあるの?」

「え?あぁ…目的とか何もないよ。ただ私が君のことが気になって、ずっと会いたくて、会えたら友達になりたいと思っていたから。そもそも私には君と同じようなものを持ってるしね。」


 確かにそう言われればそうだ。リリアにも『第五の天才』という呼び名がついている。『第二の秀才』の友達という、つまらないものはいらないはずだ。

 そして、目的という言い方はリリアも僕と似たような経験があるからだろうか。そう考えると、やっぱり僕と似たような境遇なんだろう。


「だからさ、友達になっ――」

「いいよ。」

「え?……やったぁ!!」


 これからの人生、ここまで似たような境遇の人と出会う確率はとても低いだろうし、このままだと永遠と「友達になろう」と言われるような気がしたので了承した。

 ここで一つ言っておくが、僕は友達いないがいらないわけではない。

 話を遮ったようになったため、一瞬戸惑ったようになったリリアだが、すぐに飛び跳ねるように喜んだ。そんなリリアを見て、僕はつい微笑んでしまった。リリアがそれに気づいて、フードの中を覗き込むようにして言った。


「あっ!笑ってくれた!君の笑顔可愛いね!」

「可愛いは嫌だ。あと、君じゃない。カイ・ブライト。」

「えー、だって可愛いものは可愛いもん。よろしくね、カイ。」

「よろしく、リリアさん。」

「リリアでいいよ。はい、友情の握手!」

「分かった……リリア。」


 リリアから差し出された手に内心驚いたが、ちゃんと握手して対応した。だが、あまり人(特に女性)と触れたことがなかったこと、人の名前を呼び捨てで声に出すこと、そして、今も多くの視線を感じており、この光景を多くの人に見られているのだと感じたことで僕は無意識に少し頬を赤らめた。それに見て、リリアは優しく微笑んだ。


「ねぇ、カイ。精霊授与の儀式までまだ時間あるよね?早速だけど、友達になってくれたお礼にカフェに行こうよ!」

「え?……うわぁ!」


 リリアは左手で僕の右の手首を掴み引っ張って走り出した。3分ほどで目的の場所であるカフェに着いたらしい。カフェに入ると、ドアの上部に付いていたベルがなった後店員が現れ、リリアが2人だとその店員に言うと席に案内される。案内の途中、周りを見渡すと全ての席がカーテンのようなもので遮られていた。窓側の席に案内され座ると店員は手慣れた感じでこう言った。


「ご注文が決まりましたら、テーブルのベルでお呼びください。それではごゆくっりどうぞ。」


 そう言うと、別の店員が水の入ったグラスをリリアと僕の前に1つずつ置き、案内をした店員が席の両脇についているカーテンを閉めた。カーテンが閉まると、リリアは頬杖をついて、窓の外を見ながら言った。


「ごめんね、突然連れてきて。このカフェ、私のお気に入りなんだよね。周りの視線にうんざりしたとき、1人になりたいとき、そんな時に来るの。ここじゃ、何も気にならなくていいしね。友達の誰にもこのカフェのこと、教えたことない。カイが初めて。」


 そう窓の外を見ながら言うリリアは少し感傷に浸った目をしていた。

 そういえばリリアの言葉を聞いて思ったのだが、リリアは僕と会う前に友達と一緒ではなかったのだろうか?その疑問を察するようにリリアがこちらを向いて言った。


「あ、友達に関しては気にしないで。精霊授与の儀式までには合流するよう言ってある。まあ、さすがにこのカフェに行くとは言ってないけどね。」


 次は苦笑いのような笑みを僕に見せた。

 リリアに色々聞きたいことがあるが、ここで僕は1番疑問に思ったことを彼女に聞いた。


「なんで、このカフェに連れてきたの?」

「そうだね……誰の視線も気にならないところでカイとゆっくり話したかったから、かな。」

「何を話したいの?」

「なんでもいいかな。どんな精霊がいいなとか、どんな冒険者団に入りたいなとかでもいいし、他愛もない話でもいい。とりあえず私はカイとゆっくり話したいの。」

「なんで僕とそんなに話したいの?」

「君と気が合うと思ったから……って、私ばっかり答えてる気がする。私がカイに色々聞きたいのにな。だから、次は私が質問するね……って思ったけど、先に注文しよっか。」


 リリアはそう言い、僕にメニュー表渡して、僕が注文したいものが決まると「私はいつも注文してるものがあるから。」とテーブルのベルで店員を呼び、リリアも僕もお腹は空いていなかったので飲み物だけを注文した。その後、店員がカーテンを閉め、話が再開した。


「んー、そうだな。じゃあ、カイはどこの冒険者団の入団したいの?」

「……アンバーがいい。」


 冒険者団アンバーとは現在8つある冒険者団の中でも実力No.1と呼び声が高い団だ。団長のシェパード・ヘイズは冒険者の中でも1番の強さと言われている。まあ、言われているだけで他の団長も負けてはいないと思うけど。


「やっぱりそうだよね。『第二の秀才』様なら余裕で合格だよね。」

「いや、そっちこそ。」

「そう?まあ、私もアンバーは受けるけどね。他2つは?」


 冒険者団入団には入団試験に合格する必要がある。また、入団試験期間があり、その期間の間、8つの団のうち3つの団の入団試験を受けることが出来る。もし複数の団に合格したら入る団を選択でき、3つとも不合格なら残念ながら、また来年となるわけだ。また、ある冒険者団の入団試験に合格したが複数合格のため別の団に入団するという人が出る都合上、繰り上がり合格者も出てくる。まあ、実力No.1のアンバーに関しては全員が複数合格してもアンバーへの入団を選択すると思われるため、繰り上がり合格はないと思った方がいい。


「他2つは悩んでる。マリンブルーとかカナリアとかかな。」

「そこかぁ…私はスカーレットとコーラルを受けようと思ってる。」


 今リリアが言った、スカーレットに関しては団長のマット・オットの性格が明るすぎるため、団全体が明るい印象があり、僕の中では1番入りづらいなと思っている。


 コーラルは団長のジャスミン・ハートが女性であり、強い女性に憧れ持つ女性が多いため、女性が入団しやすいと言われている。また、団員の男女比について、詳しくは分からないが女性団員が多いのが特徴である。


 僕の言ったマリンブルーの団長アシュリー・パーキンスも女性だが、こちらの団は男女比としては半々ぐらいである。そして、他の団とは比較的冷静で落ち着いた団であると言われている。


 カナリアは2年前に出来た1番新しい団である。団長はマーティ・ベネット。団長になるための団長試験に合格するものはだいたい3,4回目で合格するもので、5回目以降はもう一生団長試験に合格できないとまで言われているが、彼は5回不合格になっても諦めずに6回目の団長試験でやっと合格出来た苦労人である。苦労人であることは皆知っており、そういう彼のことが皆大好きなため、カナリアが出来て最初の入団試験の受験者数はその年の全入団試験の中で1番多く、2番目に多いアンバーの1.5倍以上いたので合格者の定員を増やしたと言われている。また、昨年の受験者数はアンバーに抜かれているが、ほんの少しの差で負けただけで、ほぼアンバーと変わらなかった。


 この5つの団の他にスプリング・フレック率いるライムグリーン、ダリル・セイルズ率いるビリジアン、フィリップ・ホートン率いるバイオレットの3つがある。


「まあ、確かにカイならマリンブルーの落ち着いた感じも似合うだろうし、カナリアはアンバーと変わらず人気だからね。」

「僕もリリアがスカーレットやコーラルに似合うと思う。」

「ありがと。でも、まずは私たち2人ともアンバーの入団試験を頑張らないとね。」


 と言ったところで「失礼します。」と僕たちが注文した飲み物を店員が持って来た。店員が立ち去ると、その後は2人で他愛もない話をした。リリアの友達の話とか、冒険者学校でのどの試験が難しかったとか、まあほとんどリリアが話していたけど。

 そして、店を出た。お会計は「無理矢理連れてきたから私に払わせて。」とリリアが僕の分も払ってくれた。


「じゃあ、友達が待ってるから、また後でね。」


 と、リリアが言い僕が頷くと、リリアが右回りで後ろ振り向き、右腕全体でバイバイと僕に振りながら駆け出していった。先程、僕に初めて会った時とは違い、緩いスピードで。僕も恥ずかしながら、小さく手を横に振る。

 しばらくしてリリアが正面を向く。その時、リリアが右手で小さく拳を握ったように見えたが気のせいだろう。僕は鞄に入っていた時計の針に目を通した。精霊授与の儀式まであと30分ほどある。ここから精霊堂までゆっくり歩いていけばちょうどいい時間だ。

 リリアと会う前は精霊堂に早めについて、精霊堂前で精霊授与の儀式まで読書して待っておこうと思ったが、これはこれでいい時間を過ごし方をした気がする。僕は読書を邪魔されたとは微塵も思っておらず、友達が出来たこと、そして、その友達が僕と似たような境遇を持つ『第五の天才』リリア・クロウリーであることに嬉しさが込み上げ、両手で鞄の紐を握り、下を向き、無意識に笑みが溢れた。


 それに気づいた僕は急いで上がった口角を戻して、紐を握った両手を放し、顔を上げ、精霊堂までゆっくりと歩き出す。それでも僕はまた無意識に笑みが溢れるのであった――。

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