第4話 兵器開発 Vol.1

 兵器開発 Vol.1

 こちらへ赴任して数日が過ぎた、基本小官以外にこの部屋には誰も居ない。

 なので今の所の仕事はと言えば、新しい技術の為の伏線の技術を開発する事に邁進している。

 発明してやらねばならない事は多岐にわたる。 例えば、かの黒船によって齎された蒸気機関の小型化であるとか。

 何故蒸気機関を小型化したいか?決まってるじゃ無いですか、兵站の確保は最大の戦力ですよ、なので、蒸気機関車による鉄道も他国に先駆けたい、更には木炭車なんてのもこの時期に登場したら愉快かなぁなんてね?

 でも冗談でも何でも無く、小官はやらねば成らないと考えていた。

 他の有識者を招きたいと言う事で、すでに現在ある蒸気機関の圧力を、つい数年前に格段に上げたと言われる、ジョージ・トレヴィシック殿なんて方にご教授願いたいと思い中将閣下に申し出ては見たが、こちらは実現できそうな気が全くしない。

 せめて小官の尊敬する平賀源内殿のような変わり者が居たらいいんだが・・・

 錬鉄に関しては試作するのに使えそうな反射炉は無いものだろうかと考えたが、確か滝野川に実際には使用されなかった反射炉があった気がする、残ってるだろうか・・・小官の前世の記憶が正しければ明治元年にされたはず、では無いから残ってる可能性が有ったので早速北豊島郡へと馬車を手配して行ってみる事にした。

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 あった・・・元々幕府の作った施設なので廃墟と化しているので無理やりカギを壊して中に入って見る、反射炉自体は存在しているが、問題は使えるかどうかだ。

 これは早いところ錬鉄技術者を見つけて欲しい。

 と、ここでふと、日清戦争で使われた銃って確か村田銃って名前じゃなかったっけ? 確か13年式と17年式が有ったはず、日清戦争では半数近くが17年式になって居た筈だ。と思い出し、開発者が村田少佐である故思い出す。

 確か今なら戸山学校で教鞭を取って居たと思い、その足でとんぼ返りする。

 戸山学校は小官の居る陸軍省から滅茶苦茶近くでは無いか、灯台下暗しとはこの事である。

 戸山学校に到着すると、早速村田少佐を訪ねる。

「失礼いたします、こちらに村田少佐殿は御在籍では無いでしょうか? 小官は陸軍省直属、兵器開発部の益田准尉であります。 願わくば村田少佐殿にお取次ぎ願いたく参上いたしました。」

「お噂は伺っております益田准尉、大層な神童ですとか、少佐殿にどのようなご用向きでしょうか?」

「村田少佐殿は小銃を国産開発するべくして研究をなさっていると風の噂に聞き及びまして、ご一緒に開発に携わっては頂けないものかと思い参上致した次第であります。」

「それでは少々こちらの部屋でお待ち下さい。 今少佐殿は教壇に立たれておりますので授業が終わり次第お伝えしますので。」

「ありがとうございます、では失礼して。」

 と案内された応接の椅子に腰を掛ける。

 暫く待つと、村田少佐殿が部屋に入って来る。

「失礼、益田君と言ったかね?君とは面識は無い筈ですが?」

「これは突然の訪問失礼いたしました、村田少佐殿は国産小銃の開発にご尽力されているとお聞きしたものでありまして、是非お力をと思いまして。」

「ほう、左様であったか、ただ国産小銃と言っても、舶来物を分解して構造を丸写しに近い状態で構成し直しただけのようなものだが。」

 それが重要なのだ、国産で量産体制が出来たあの小銃が有ったからこそ日清戦争は大勝出来たとも言えるのだから。

「いえ、解析は私達研究者にとって大変重要な意味が有ります、是非ともお力をお貸し頂きたい。 付きましては、陸軍省の一角を間借りして立ち上がった兵器開発部までお越し願いたいのですが。」

「陸軍省ですか、それなら出向く訳にはいかない、と言いたい所だが判りました、ただ今日のすぐと言う訳には行かない、明後日で宜しいかね? いかんせん私もここで教鞭を垂れる身、直ぐの直ぐにと言う訳には行きますまい。」

 何か蟠りでも有るのだろうか、出向く訳にはいかないとはどういう意味で言ったのだろう。

「ええ、勿論構いません、是非少佐殿に見て頂きたいものが有ります、それでは小官はこれで失礼させて頂きます、お時間取らせてしまい失礼致しました。」

「ちょっと待ちたまえ、見せたいものとは何ですかな?」

「小官が書き起こした設計図であります、機密書類になってしまって居るので持ち出しが厳禁でありまして。」

「判りました、興味が湧きました、これから伺いましょう、と言いたい所ですがこの後、小用が有るので、先ほどの通り明後日で伺わせて頂きましょう。」

「了解致しました、では、明後日。 失礼いたします。」敬礼をして退室した。

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 陸軍省に戻ると、中将殿がお探しになって居たと言うので急いで中将殿の執務室に向かう。

「失礼いたします、益田准尉、ただいま戻りました。」

「入りたまえ。」

「は、失礼いたします。」

「どちらへ行って居たのかね?大方予測は付くが。」

「はい、反射炉を使える所は無いかと思い調べた所、明治元年に放棄された旧幕府の施設があると判ったので使える物ならと思い見に行って参りました、その後、陸軍戸山学校へ村田少佐殿を訪ねて参りました。」

「そうか、村田君に会って来たか、彼は何と言って居たかね?」

「は、是非目を通して頂きたい設計図があると申しました所、興味が有るとの事で、明後日此方へお越し頂けるとの約束をして参りました。」

「そうか、良くやった、彼はちょっと変わり者でね、吾輩が出頭せよと言っても教鞭を執る身だからとなかなか来んのだ。」

 成程、研究者には有りがちだが、そう言った気質の方なのだろう、何だか納得した。

 すると、中将は立ち上がって隣の応接の戸を開ける。

「入りたまえ、君に頼まれた人物を呼んである。」

「はいよ、すんずれいいだしまっス。」

 そこに居たのはごく普通そうなおっさんだった。

「まんずぺっこおどけーたずら、ほんどにめんごいわらすでねっがー。」

 何語だ?・・・・・

「はっはっは、彼は南部鉄器の鍛冶師だ、世界初の鉄砲の試作が出来る人物が居ないかと各支部に連絡を取っておいたら見つかったぞ。」

 南部鉄器・・・と言う事は岩手県? いや、青森県の太平洋側だったか?

 方言は本当に良く解らんな・・・。

「お言葉ですが、南部鉄器は鋳物では? 鍛冶師とはどう言う事でしょう。」

「うむ、実はな、その昔、南部藩等に対し刀鍛冶をしていた家系の末裔らしいのだ、鉄の打ち方は知って居て秘かに刀も打っておったらしい。」

「そんな事実が有ったのですか、初耳です。」

「吾輩も今回貴官の要望で探し回って居た折に初めて聞いたわ。」

 安土桃山時代頃までは刀を普通に打って居たらしい、が、本当に初めて聞いた。

「これは遠くから良くお越し下さいました、兵器開発部を任されております、益田一太郎准尉であります。 よろしくお願いいたします。」

「んで、さっそぐだべが、作業のでぎそうな工房なんてあんの?」

「はい、それを今日、探して参った為にお待たせする羽目になってしまったのです。」

 あの場所ならば何時間も掛からずに移動も出来ようと言う物、きっとあそこなら気に入って貰えると思う。

「中将閣下、一つお願いが有るのですが宜しいでしょうか?」

「何でも言って見たまえ。」

「は、では申し上げます、例の反射炉の施設なのですが、長い事廃墟であった為に少々建物の手直しが必要でありまして、そのついでに寝泊まりが出来るような部屋を増築出来ない物かと思いまして。」

「うむ、協力して頂くのだ、衣食住は保証しよう。 当面は帝国屈指のホテルで生活して貰い、改築にすぐ取り掛かろう。」

「有難う御座います。」

「と、言う事になりました。 明日から本格的に詰めて参ろうと思いますので、今日は宿の方でごゆっくりなさって下さい。」

「ほか、へば今日はお暇さしで貰うずら。」

「明日の朝、打ち合わせの為に迎えの者を行かせますので。」

 軍の用意した馬車に乗った南部鉄器の鍛冶師を見送って今一度中将に向き合う。

「中将閣下、少々宜しいでしょうか?」

「まだ何かあるのかね?」

「はい、実は、蒸気機関の小型化を検討しております。」

「ほう、どのような利用をする気かね?」」

「は、現在、炭鉱等で掘削した石炭を運び出すのに利用しているトロッコの線路と同じものを国内各主要都市などに引っ張ってその間を蒸気機関の列車を走らせると言う構想が有ります。」

「成程、だがそれだと軍の範疇を超えるな、それは大木君に進言して見てはどうかね?」

「はい、それも考えたのですが、大木伯爵は現在、司法卿として手腕を振るわれておりますので、かなりお忙しいようであります。

 それに、鉄道網の構築は、兵站の確保に重要な役割を担う物と考えます。

 是非に開発許可だけでも頂きたいと思います、開発した設計図等でご判断頂き、恐らく国家事業になる物と思われますので、国会へと挙げて頂ければと思います。」

「フフフ、お主を引き抜いて間違いは無かったようだな、国費も我が国は少ないが、一大事業を行うとなれば我が人脈を駆使してでも実現にこぎつけてやろう。」

 もう一つの狙い、木炭車はまだ黙っておこう。

 それにしても、ここ迄派手に立ち回って、神の奴等はどう思ってるのだろう。 まぁ気にしても仕方が無いが。

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 その夜、夢を見た。

 マークとアイリーン、小官の3人と、アメリカ大統領、ドイツ国家元首、天皇陛下のお三方との計6人で記念写真を撮る夢だ、しかも銀塩カメラで、未だこの時代には銀板カメラしかない、どうやら銀塩カメラも作らねばならないらしい。

 先ずライフルを完成させたらすぐにフィルムの開発に取り掛かろう。銀塩フィルムは半導体作成には必要不可欠だし・・・

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 翌早朝、突然頭の中にアイリーンの声が飛び込んで来る。

《先生?今、生まれました、先生のおかげでちゃんと転生出来ましたよ。》

 やっと生まれたんだな、一寸だけ遅かった気はするが、まぁドイツの技術力なら大丈夫だろう。

《おめでとう、アイリーン、俺は今、日本で陸軍省技術開発部で働き始めた、但し9歳の神童として引き抜かれた形だ、君も頑張ってドイツ技術省に潜り込んで貰うぞ、出来るだけ早く頼む。》

《任せて下さい、伊達に前世の記憶を持って無いですからねっ! ところでマークはどうですか?先に話し掛けてみたけど反応無いんですよね。》

《うむ、マークは俺もまだ確認できてない、いつ生まれる気なのか・・・》

《転生に失敗・・・って事は無いですよね・・・》

《それもあり得るかもしれん、だがその時は仕方ない、二人で世界を変えよう。》

《解りました・・・》

《そうか、君はマークの事が好きだったな、もし転生に失敗して居たら残念ではある訳だな、俺も失敗では無い事を祈ろう。》

《え・・・知ってらしたんですか?》

《もちろん、はたから見て居ても判り易かったぞ。

 その為に二人を一緒にと申し出たんだ、君達若い者たちの恋愛を踏みにじられたくは無かったしね。

 まぁ俺は女性と付き合った事は前世では無かったけど。》

《そう言う今はどうなんです? モテモテですか?》

《ははは、未だ9歳だよ、君、でも大学生の女性に一度嫁に貰ってとは言われたよ、まぁ冗談でだが。》

《へぇ~、隅に置けませんね、今度はもっと若い子でも引っ掛けて下さい。

 じゃあ私はまだ生まれたばかりなのでそろそろお休みなさい。》

《ああ、くれぐれも体だけは大事に育ってくれたまえ、世界を変える為には君達は絶対必要だ、よろしく頼むぞ、お休み。》

 さぁ起きよう、今日は鍛冶師と打ち合わせだ・・・

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