第2話 幼少期

 幼少期

 暫く意識が遠のいた後、次に目が覚めた時、世界は真っ暗だった、いや、むしろ瞼は開かなかった。

 そして俺の言葉は全て赤ん坊の泣き声だった。

 暫くはこのままなのだろう、首も座って居ないであろうから無理に動く事も出来ない。

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 それからまた暫くが過ぎる。

 今度はようやく瞼を開く事が出来るようになる。生まれ直して初めての景色は、純和風家屋の天井だった、かなりの大きな屋敷のようだ。

 俺はまだ意思表示が出来ない、その辺は少し苦痛ではあるが、其処は神と言う俺を消滅させようとした超理不尽存在に一泡吹かせる為だと思えば我慢も出来ようと言う物だ。

 ただ、母親と思しき女性の乳を推し付けられて乳を吸う分にはまだ我慢も出来ようと言う物だが、乳母と思しき女性も居て、その乳を推し付けられるのが非常に苦痛である。

 いや、別段酷く醜い女性と言う訳でも無いし母よりむしろ若いのでは無いかとも思う女性だが、何と言うかこう、恥じらいも無く押し付けられる乳を吸うというのは少し逆に抵抗が有ると言うか、何と言うかその・・・

 だがそれも我慢して飲まねばならない、未だ自意識の薄い普通の乳飲み子であればそれも有りなのだろうが、俺には前世の記憶もはっきりと有るので苦痛以外の何物でもない。

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 更に暫くの後、俺はやっと言葉を手に入れた、とは言ってもまだ、「ばー」とか「だー」とかだけだが。

 耳もかなり聞き取れるようになって来た、初めはどうやらぼんやりとしか聞こえないものらしい、恐らくは耳小骨は生まれた後から発達するのだろう。

 この頃になると首も座って来て居るので少しづつ筋トレをして動けるようになろうと努力を始めた。

 ここ数日前から、離乳食を食わされているが、味付けされて居ない豆腐であるとか味付けされて居ない青菜をすり潰した物がメインである、これの味にはホトホト困った、だがこれも修行と思い我慢だ。

 しかし、今の状況のように前世の記憶が有り意識が完全にある状況で動けないのは非常に苦痛だ、この待遇は改善出来ないものだろうか。

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 又暫くすると、寝返りが打てるようになった。こうなったらもうこっちのものである。急いで手足を鍛えるにはやはり腹ばいになるのが一番だ。

 今は背筋と腹筋が同時に鍛えられるエビぞりを試みつつ腕立て伏せ迄並行して行っている。

 少しでも早く立ち上がれるまでの筋力をつけるぞ、少しでも早く世に出る為にはまず体力、次に早々に言語を使えるようにし、神童と言われる人物になるのが最短の方法だ。

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 遂に這い回れるようになった、そして単純な単語なら喋れる程に舌が発達してきた。

 少しでも多くの筋力を付ける為に全力這い這いなる行動を取って常に走るかのように這って居る。

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 今日、遂に立ち上がることに成功した! 

 大人達は早いと称賛している、当然である、ただの赤ん坊では無いのだ、前世の記憶を持って未来から転生して来たのだからな、どんなに必死で鍛えて来たと思って居るのだ。 

 まぁこれは人に言うと頭が可笑しいと言われるであろうと思われるので言わないが・・・

 舌の方も順調に発達を始めた、味覚も更に発達した為か、味付け無しでは辛くなったので嫌がるようにすると、少し甘味等を足した物を頂けるようになった。

 兎に角母乳は美味しくない、ので、出来る限り離乳食の方へ行くように最近はしている。

 だがそうすると変わった子だと怪訝な顔をされる。

 乳児用粉ミルクのような物は未だこの時代、発明されて居ないはず。

 今しばらくの我慢だ。

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 とうとう歯が生えだした、やっと母乳から解放される。

 生前は自他ともに認める程のオッパイ星人であったと今更告白するが、今では見るのもウンザリである、と言っても母の乳房に限っては元々見てもどうと言う事も無いのだが・・・

 あ、いや、別段これと言って、見た所20代前半の乳母の乳房が観るに堪えないとか言う訳では無いのだ、むしろ形は良いと思うし悪くは無いのだがこう毎日恥ずかしげも無く見せつけられると飽きて来るとかそう言ったアレで、って何を誰に向かって言い訳がましい事を言って居るのだろうか、俺は・・・

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 初めての粥、やっと離乳食よりマシなものにありつける・・・・・マズっ!

 こら!いくら赤ん坊で栄養バランス第一だからと言って色んなもん混ぜただけで大した調味料無しはどうかしてるんじゃないのか?!

 せめて多少の塩分位は寄越せ! 出来れば糖分ももっと寄越せ!

 取り敢えず豪快に泣いて見せて体全体で拒否して見た。

 こうなったら、あれだ!歩き回れるようになったのだから砂糖の壺位見て判るんだ、自力で舐めてやる!脳の発育には糖分は重要なのだよ!

 まぁ、この時代上白糖は滅多に無いので大概黒糖か甜菜糖のような物だが。

 但し蜂蜜は確か乳幼児には雑菌が多いのでご法度と聞いた事がある、見つけても舐めないように心がけるとしよう。

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 あった、遂に見つけたぞ、この時代の台所は未だ土間であった・・・土間へ降りるのに苦労したが遂に、砂糖の壺に辿り着いた!

 勿論手を突っ込んで一掴みして舐めるぞ、舐めるのだ!・・・・・あ、見つかってしまった・・・でも何とか掴めたので舐める事には成功、やはり糖分は必要である。脳に栄養が回るせいか非常に思考がしやすい状態だ、叱られても毎日砂糖をなめよう。

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 遂に奥歯迄生えだした、良いぞ、砂糖毎日舐める作戦は途中から砂糖を高い場所に移動されてしまいうっかり下に置いた日しか舐められなくなってしまったが、それでも他所のガキよりはよっぽど脳の発育に貢献出来たと思われる。

 しかし奥歯が生え始めた事で飯がマシなものに変化するはずだ。

 最近では、もう既に、「おとうたま」「おかあたま」「じいたま」「ばあたま」等の単語が喋れるようになって来たので、意思表示を明確なものにしつつある。

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 暫くあけて・・・3歳になった、誕生日を祝われた俺は、3歳にして「あいがちょごぢゃいまち」とお辞儀をしてのけてやる。

 遂にこの時が来た、この子は賢い、神童だ等と両親が騒ぎ始める。

 幸いにも、家は裕福な家庭のようで書生が複数住み込んでいたりするので、彼らの言葉遣いを真似て、自分の事を「小生」と言おうとしたのだが未だ舌の発達が一寸足りず、「ちょうちぇえ」

 となってしまい何を言ってるのか良く解らないと言われる。

 どんどん色んな単語に挑戦していこう。

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 4歳。

「お父様」「お母様」「小生」ついにハッキリとした発音が出来るようになる。

 しかも、3歳から母が字を教え始めたので不自然にならない程度の早さで文字を覚える振りをして少しづつ書けるようにして行ったが、今ではすでに小学校1年生で習う程度の漢字は書けるようになった(と言うかそう言う設定で進めた。)

 やはり毎日のようにこの子は天才だ、神童だと褒められている、誉められるのは悪い事では無い、己の分を弁えさえすれば褒められる方が伸びるのだ。

 実際俺は生前もそうであった(ただし恐らく分を弁えなかったが為に人付き合いが苦手で30代になっても女の一人も居なかったのだと思って今更ながら後悔はしているのだが。)

 最近、父が算術を教えてくれるようになったのだが、これも呑み込みが早いと褒められた。まあ元電子物理学の権威としては当たり前なのだが。

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 僅か半年で一桁の割り算迄習得した小生に、父上が家庭教師として書生の一人を宛がってくれた。

 この青年がなかなかの知恵者であったが、名前は歴史上聞いた事は無かったので普通にどこぞの会社の部長クラス止まりだったかもしくは何かの事故か病気でなくなってしまうのではないだろうか、残念である。

 かくして家庭教師を得た小生はゴリゴリと勉強をした(している振りをしていた)

 語学の授業ではとうとう家庭教師とこんなとらえ方も出来るのでは無いかととんでもない論議までするようになった。 もはや大学生並みと言える所まで漕ぎ着けた。

 算術ではすでに5桁の暗算迄行えるようになった(ような振りを出来るまでに至って居る)

 そのせいか、この書生もうかうかして居られなくなったらしい、日夜帝国図書館に通い新しいネタを引っ張り出してきてまず自分が解けるようにと必死で勉強をしているらしい。

 思い出したのだが、因みに2歳の時に弟が生まれている。

 この家が三〇物産の初代社長宅であると言う事は、来客時に父を客人の父を呼ぶ名で判明して居たので、弟は有名な劇作家で政治家にもなった、益田太郎冠者であることが判明している。

 因みに彼の兄、つまり今の小生は、史実では死産であった、サタンめ流石は魔王、目の付け所が冴えてる、この家ならば死産で生まれなかった筈の子が産まれただけに過ぎない訳である。

 そして同時に、三〇物産初代社長益田の家と言う事は即ち、自動的にこの家は爵位持ちだった。

 元ジャパンナショナルメンサ会員だった小生だからこんな事も記憶していたのだが。

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 5歳になった、小生は自分で本を父にねだり物理学を遂に学ぶ(ふりをした)

 更には、火薬のエネルギーに関する論文を書き始めるようになる。日清戦争をより一層快勝にするにはオートマチック拳銃やアサルトライフルを作る必要性が有ったからだ。

 そして5歳にして尋常小学校修業過程にある項目全てをマスターするに至る。

 最近弟の家庭教師をせよと父上から命ぜられたが、どうも奴は勉強があまり好かないようだ、と言うか父は小生が賢過ぎる為にマヒして居るのだろうか、普通3歳で勉学は中々難しいと思うのだ・・・

 弟の勉強嫌いに関してもまぁそうだろうなと思う所が有る、劇作家になる筈なんだから。

 まぁその後に政界にも足を踏み入れるが・・・

 今は明治11年、日清戦争迄後16年しかない。

 せめて其の3年前までまでには帝国軍開発部に入らねばならない。

 神童との噂はとうとう尋常中学校にまで轟いたようだ、何とか日本初の飛び級を認められないものだろうか、父上、その爵位で何とかごり押ししてくれたまえ。

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 6歳、なんと、念願の飛び級入学が認められた。

 本来尋常小学校に入学する年齢で尋常中学校への入学が許可されたのだ。

 これも父上が男爵であった事とこの神童の名を欲しいままにし続けた為の功績だ。

 だが小生の飛び級を強く推したのは父では無く母の方であると後に聞く事に成る。

 既に中学校でも未だやらないであろう物理学や、様々な方向に手を伸ばし始めた小生を、父は最近何故か恐れているようにも見える。

 まぁしかし、仕方の無い事かも知れない、何故なら小生は勉学だけでなく剣術の稽古もしっかりこなして既に二級に王手をかけているのだ。何故そんな事をするかって?

 決まってるだろ?

 たった一人飛び級のチビ助で男爵の息子、七光りでは無いと知っていても七光りだと揶揄されて虐めに会うのは必然だ、そんな事をする奴らを一人づつ〆て行く気で居るからだ。

 流石にこの年齢で剣術二級の6年以上の飛び級となれば父上も神童では無くて本物の神でも生まれたかと恐れ戦くだろう。

 まぁ気持ちは判るヨ、父上殿。

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 皆様こんにちは。

 尋常中学校で習った方程式を応用して、三次方程式に発展させて教師をタジタジにしてしまった神童、おっと未だ名乗っておりませんでしたな、現在名前を、益田一太郎と申します。

 皆様如何お過ごしで御座いましょうか?

 小生、この度、8歳を迎えまして、更なる飛び級にて慶應義塾に入学、語学を学び、私塾東京物理学講習所へも通い理財を学んでおります、まさに我が世の春で御座います。

 すでに黒色火薬と、これまでガス灯にしか使われて居なかったガソリンなる化石燃料の熱量やエネルギー量を数値で測定する事に成功いたしました。

 この学科を今年いっぱい先行した後は、化学と物理工学、そして生物学を執ろうかと思って居ります。

 因みに剣術の方の腕前は、流石に幼少から始めただけの事はあり、現在一級、もう既にそこらの大人でも下手にしたら一撃の下に切り伏せられるまでになっております。

 剣道、ではありませんので、剣術です、今は明治ですから。

 え?流派?良いでしょう、お教えしましょう、北辰一刀流です。

 まぁ、未だ持てる真剣は子供の身長ですから小太刀迄です、従って実際戦えば不利でしょうが・・・。

 そろそろ居合でも習おうかとも思うのですが、最近父上が以前にもまして小生に恐怖して居て、以前は妙に協力的だったのですが逆に非協力的になって来たので、慶應義塾や私塾東京物理学講習所にも父上の御友人の伯爵様より学費をお借りしております。

 いやはや困ったものです。

 実の所最近、黒色火薬のエネルギー量の算出に成功した小生には、軍部から、鉄砲玉の火薬の量の調整が正確になったと少々小銭が入り始めているので少しづつはお返しして居るのですが、いやはや最近は家に居辛いもので、どこぞに賃貸物件でも借りて住めないものかと画策しておる次第です。

 この歳で可笑しいでしょうか? ええ、多分可笑しいのでしょうね。

 この間、長屋をお持ちの名主の方をお尋ねしたら笑われてしまいました。

 この際伯爵様家に書生として潜り込めないかとも思って居りますが、父の御友人なのでアッサリ見つかってしまいそうで悩み処なのですが・・・。

 いい手は無いでしょうか。

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 9歳、小生の書いた火薬力学と称する論文が、驚いた事に既に帝国陸軍兵器開発部の上層部の目に留まってしまったようです。

 これから一寸ばかり新型小銃のプレゼンしに行って参ります。

 因みにアサルトライフルの構成だけでなくエンジンの設計図も既に書きあがってるんですけどね・・・えへ。

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 一週間が経ちました。

 帝国軍兵器開発部より正式にオファーが有りました。

 どうやら小生のプレゼンしたプランを研究する事になったようです、未だ新型小銃だけですよ?あくまで・・・

 早速呼び出しに応じて学生服に身を包み、出向いて見ますと、父ではなく伯爵様が身元保証人になると言う事で先にご到着されておりました。

 伯爵様は陸軍将校であらせられるのでその力が強かったと言った所でしょう。

 かくして小生は、9歳にして慶應義塾修業証書、私塾東京物理学講習所終学証明書を頂き、帝国軍兵器開発部に徴用された、それによって必然的に給金と営内寮ではあるが住む所と食の確保、そして配給による衣料と言った、身を立てるに必要な全てを手に入れたのであった。

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