第31話 休息は無い

「うぅ…」


 …あれ、寝てた?確か、路地裏に居て…そこで確か幸牙と会って…あれ、思い出せないや…。


 というか、ここ何処だ?布団の上、ということは分かるのだが…知らない部屋だ。部屋の明かりは点いていなくて、カーテンから差し込む日光だけが部屋を明るく見せていた。


 その時、部屋の扉が開いた。


「あ、お、起きた?」


「幸牙…?」


 部屋に入ってきたのは、なんと幸牙だったのだ。


「大丈夫だったか…色々と」


「え、何が?」


「覚えて、ない?」


「何か、路地裏で幸牙と会った辺りまでの記憶しか…」


「そっ、か」


 幸牙は何か言いたげな顔をした。どうしたのだろう。


「ところでここは何処?」


「あ、俺ん家」


「え、じゃあ路地裏から此処まで俺を連れてきたの?」


「ま、まぁ…背負って」


 マジかよ、イケメンじゃん。…いや、そんなことは前から知ってるか。え、というか俺、幸牙に背負われてたの…?マジか、起きてる時にやって欲しかったな…温もりとか感じたかった。


「…あれ、あそこから結構距離あるよね?」


「うん、歩いて家まで来たけど」


「力持ちすぎない…?」


「永太軽いし…」


「誰がガリや」


 俺がツッコんだところで、幸牙が笑った。それにつられて俺も笑ってしまった。…何か、幸牙一緒に居ると楽しくって…、この日常に彩りを与えてくれるよな、幸牙って。


 しかし俺は忘れていた、とある重大な事を…。


「…あ!幸牙仕事…!」


「…あ!?」


 時計を見ると、既に8時を過ぎていた。…ヤバい、これは…。


「「遅刻だぁ!」」


 俺達は鞄だけ持って、家を飛び出した。



 ◆



「ちょっとー、二人して遅刻?」


「すみませんでした…」


 俺達は会社に着いて早々、先輩からの説教を受けた。色々あったとはいえ、まさか遅刻するとは…。


「というか、永太に関しては今日休みじゃない」


「うぅ…」


「まぁいいさ、キッチリ仕事はやってもらうけどね」


「はい…」


 俺が先輩からの言葉の数々に返答している最中、幸牙はずっと黙っていた。何も先輩も俺にだけ言わなくても…。


 自分の席に座ると、隣に座っていた蒼哉くんが話しかけてきた。


「珍しいね、永太くんが遅刻なんて」


「蒼哉くんまで…」


「ごめんごめん、傷を抉る気はないんだって」


「昨日色々あったんだもん…」


「何があったの?」


 長い前髪の奥の瞳が、俺の眼と合った。右目しか見えなかったけど、蒼哉くんって目の色赤なんだな。


「…言いづらい」


「あら、重い話っぽいな…失恋したとか?」


「…俺が恋人居るように見える?」


「んにゃ、全く」


「じゃあ訊なよぉ…!」

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