第29話 相思と相愛

「…それって、どういう」


「だから、私が杉皚くんを好きになってたって意味」


 待て、華成さんはずっと俺のことが好きだったのか…?嘘だろ、今まで誰とも好きと言われてこなかったのに…。


「いいもん、それでも私は杉皚くんのことが好きだから」


「…は?」


 いやいや待て待て、俺は俺で好きな人がいるって言ったよな?それなのに何故まだ俺のことを追うんだ?


「いや、でも…」


「分かってるよ、杉皚くんはその子に一途だってこと」


「…それなのに何故まだ俺のことを追うんだ」


「簡単だよ、私が杉皚くんを好きであるという気持ちに偽りはないもの」


 俺の胸に、その言葉が自然と落ちてきた。好きであるという気持ちに偽りはない…か。何か、自信ついた。そっか…俺が永太のことが好きという気持ちに偽りはないのか。…この気持ちは、大事にした方がいいだろうな。


「そ、そう…か」


「にしても杉皚くん、意外とよく喋るね。完全無口なのかと思ってた」


「そ、そりゃ喋る時は喋るけど…」


「その無口でクールな所に私は惚れたんだけどな」


「な、ちょ…」


「顔、赤いよ?」


「恥ずいんだよ…」


 俺は後頭部を掻きながら、目線を少し逸らした。人にそんなこと言われたことないからつい赤面してしまった…。


「あ、ごめん。この後予定あるから帰るね」


「え、あ、あぁ…」


「それじゃ、また会社で」


 華成さんは俺に手を振ったあと、後ろを向いて人混みに紛れて消えて行ってしまった。


━━━━好きであることに偽りはないもの


 …偽りはない、か。そうだな、俺が永太を思う気持ちは本物なんだ。永太、好きだ、お前にそう言いたい。本当に言えるかは別として。ただ、せめて気持ちだけでも。なんて考えてしまった俺が居た。


 ショッピングモールを出て、外に出て見上げた青空は、いつもより綺麗に見えた。





「ぶえっくし!」


「風邪?」


「誰か噂してるのかもしれないです」


「えーでも永太くんが噂されそうな所ある?」


「ないかな」


「特にないっすね」


「ボクもないと思うな」


「…てことは風邪と?」


「「「うん」」」


「三人でハモるのやめてください」


 うん、平和だ。限りなく平和だ。ただ何故俺はいじられるのだ。…まぁ俺、ドMだから、そうやっていじられるの好きとは口が裂けても言えないな…。


 その時、先輩が口を開いた。


「そういえば、うちの部署って中々全員集まらないよね」


「確かにそうっすねー。今日は幸牙くんと華成さんが休みっすから…」


「部長の命令で全員出社に出来ないんですかー?」


「そんなブラックなことしたくないんだが…」


 うぅ…。ただ本当に幸牙の居ない職場は寂しい。好きな人の顔を見れないというのはなかなかに苦痛だ。


 …幸牙も同じ気持ちだったらいいのに。俺が居なくて寂しいと思っていたりするのかな…。


『相思』にはなれても、『相愛』にはなれないんだろうな、俺たちは…。

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