第15話 また明日

 俺の隣に、好きな人が居る。それだけで、どれだけ俺は幸せなことか。幸牙は前だけを見て、決して俺の方を見ない。幸牙の頬が少し赤くなっているのは、多分気のせいだろう。


「ねぇ、幸牙」


「…?」


 幸牙は黙って俺の方を見る。


「幸牙ってさ、何でそんなに喋らないの?」


 俺は前から気になっていたことを聞いてみる。


「…喋りたくないから」


 幸牙は少し小声で答えた。


「でも、俺とは話してくれるよね」


「っ…」


 幸牙は痛い所を突かれたかのように、耳がはねた。そのまま幸牙は黙ってしまった。


「…あ、変なこと、言っちゃった…?」


「…お前とは話しやすいだけだ」


 何故か照れ気味にそう答える。話しやすい…のかな、俺って。


 たち駅に着いた。俺と幸牙は反対方面の電車だ。


「じゃあ、また明日」


「…おう」


 ここに来るまで、ずっと繋いでいた手を離す。離すのは、とても名残惜しかった。改札を抜け、駅のホームに降りる。持て余した手をポケットに入れながら。


 ふと反対のホームを見ると、スマホをいじっている幸牙を見つけた。同時に向こうもこちらに気が付いたようだ。俺は何となく、手を振ってみる。すると向こうは、フッ、と笑ってまたスマホの方を見た。ああいうクールなところに、俺は惚れたのだ。幸牙の笑顔が愛おしかった。


 すると、俺がいる側のホームに電車がやって来て、幸牙の顔が見えなくなってしまった。

 …また明日、幸牙。





 あっ…。


 向こう側の電車が来てしまった…。もっと、永太の顔を見ていたかったな…。…何で俺は、他人に対してこんなに不器用なのか。やはり親のせいなのだろうが…ここまで根付くものだとは思っていなかった。本当はもっと、人と話したい。クールキャラじゃなく、明るく振る舞いたい。


 でも俺は…。


 …ダメだ、逃げてばっかりだな、俺は。俺は今ここで泣きたくなったが、その気持ちは電車の音によってかき消された。


 …永太、行っちゃったな…。また明日なんて、俺には辛すぎるよ…。…あ、電車来た、乗ろう…。


 明日という日に、俺とお前は居られるのかな…。

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