千回目の告白

さい

第1話

 ピンク色に輝く、綺麗な桜が風によって空高く舞った──。 


 また、この季節がやって来たんだ。


 卒業式──。


 それは、高校生活で最後の大きな行事であり、人生新たな始まりを告げてくれる、一つの儀式。


 卒業式が終われば、涙を堪えている人もいれば、泣いている人もいる。

 他にも、先生と絡んだり、友達とワイワイしていたり、最後らしく楽しくいる人もいる。


 みんな、これで終わり──。


 始まりがあるなら、いつか終わりがある。

 それは、物事において最後の終点である。


 だから、みんな、それぞれの『最高』を手に入れようとしている。


 入学式の頃とは全く違う景色。

 全てが新鮮だった、右も左もわからず、ただただ全力で走っていたあの時。

 友達を作るのも、冒険のように歩いた校内も、全てが今となっては真逆の感情だ。

 

 もう一度、戻れるならと考えてしまうやり直したいことだってある。

 でも、それを全て含めての『卒業』なんだ。


 私は拳を握る。


 だから、私もこれでけりをつける。


 みんなと同じ、『最高』を手に入れる!!



 私は走り、人混みの中をなんとかくぐり抜けてなんとか、思い出の……約束の場所である一本の綺麗な桜の木が生えている校庭へとやってきた。


 はぁはぁ……。


 よし、私頑張るぞ!!


 そして、桜の木の下には、木に寄りかかる一人の男子が……私に気づいたのか、こちらにやって来た。


「遅い。俺を何分待たせてんだよ。三年前から何一つ変わらない、容量の悪い女だな」


 そう、クスクス、と笑う彼の名前は原健一だ。


 私は口を膨らませて。


「今日で終わりなのに、その言い方はひどい!!」

「ははは、すまんすまん。それで、話とは……?」


 ふん、と私はそっぽを向いて。


「ほんとにひどい!! 意地悪健一!!」

「すまんすまん。しらばくれてよ。あの時もここだったけな……」

「うん……」


 気づけば、三年前のことだ。


 あの時はまだ、健一くんの名前すら知らなかった。

 全てが新鮮だった、あの時はもうない。


 あの時、私と健一くんはこの桜の木の下で出会った。


「もう、答えは出てる。ずーっと昔から……お前と初めて会った日からな」


 そうニコリと言う健一くん。


 よし、私……言うんだ!!


 もう、何回目すらわからない……この言葉を──。


 心臓はドクンドクンと速さを増す──。


 周りの声が聞こえないほど、大きな音だ。


「健一くん。私は健一くんのことが好きです……だから、私と付き合ってください!!」


 初めて会った日から……私は健一くんのことが好きだった。

 この桜の木の下であったあの日から。


 すると、健一くんは、ぷぷ、と笑うのを堪え。


「お前、そのセリフなんか回目か覚えてるか?」

「え、ええ……」


 あれ、何回目だっけ……。

 百回は容易く超えてるよね?


 何回目かなんてもう覚えてはいない。

 

 そのくらい、この言葉を口にしてきたからだ。


 健一くんは私の頭をポンと叩き。


「千回目だよ……その言葉」


 そっか……もう、そんなに言ったんだ……。


「なあ、あの日さ? 俺が言ったセリフ覚えてるか?」

「うん、忘れるはずないよ」


 あの日、私が健一くんに告白した時だった──。


「なら、なんて言ったよ?」

「そんなの、簡単だよ。『今日から毎日告白してみろ』でしょ? あんなの衝撃すぎて忘れられないよ」


 何の意味があるのか、わからない。

 でも、それで少しでも未来が幸せになるなら……実際、毎日告白して毎日振られてきた。

 時に、諦めかけた時もあった。

 でも、今が不幸でも未来が幸せなら、私は何だってすると決めた。


「ああ、そうだよ」


 すると、健一くんは私の両脇に手をやり、私を高く持ち上げる。

  

 ハッ──。


 その時、私は気づいた。


 健一くんの耳が赤く染まっていることに。

 その色は赤というよりは、桜と同じといった色だった。


「なあ、千代? なんで俺があの時、あんなこと言ったかわかるか?」

「ううん、わかんないや」

「ははは、だろうな。ほんと鈍いよなお前……」


 そして、健一くんは私に顔を近づけて──。


 ──キスをする。


 その瞬間、時間が速くなったのか私に見える全てが早く感じた。

 いいや、違う。

 ──私だけが止まったからそう見えたんだ。


「え……」

「これが答えだよ……」


 その言葉を聞いた瞬間、私の目からはこの桜の木よりもたくさんの涙が目から流れだす──。


「千代……俺は、お前がずっとずっとずっと好きでした!! 俺と付き合ってください!!」


 ブワッ──っと風が吹き、その言葉とともに桜が舞う。

 それはまるで、私たちを祝福しているかのように。


「……遅いよ……言うの遅いよ……」

「ごめんな……」


 泣いている私を健一くんは優しく包み込む──。


「なあ、千代?」

「……何……」

「なんで、俺があんなこと言ったか知ってるか?」

「ううん、知らないよ……でも、私……頑張った……」

「ああ、まさかほんとに千回告白するとは思ってなかった。あのな、千代。俺はさ初めて千代から告白された時に、『あーこいつどうせ、顔だけなんだな』って思ってさ……」

「顔……認めてるんだ……」

「ああ、だから、千回ほんとに告ってきたら付き合うって自分の中で約束したんだ。ほら、ほんとに好きならそのくらいできるだろ?」

「……でも、振られるの怖かったよ……」

「それは本当にごめんよ。でも、毎回、告白されるのがいつのまにか楽しくなってたんだ。そこで知ったよ。俺は千代に恋してることを……いつも、ドジで容量が悪い、このまま大人になったらどうなるんだろうって……そんな千代のことが可愛くて心配で……」

「ひどいよ、いいすぎ……だよ……」


 そんだけ、私を見ててくれたんだ。


「悪い、悪い。でも、そんな千代を守ることは俺しかできないと思う。何様だよって話だよな……」

「……そんな……ことないよ……健一くんはいつも、私を助けてくれた。振る時のセリフも毎回違くて、振られるのは辛いけど頑張って来れた……」


 ああ、私にとっての『最高』は──。


「ねぇ、キスして……」

「はぁ? なんで……」


 そんな恥ずかしがる健一くんの顔を両手で抑えて──キスをした──。


 これだ──。

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